花を生む少年は禁断の恋に身を焦がす

舞々

プロローグ

「見て見て! お姉ちゃん。こっちにも綺麗なお花がたくさん咲いてる!」

「本当ね。これで花冠を作ってママにプレゼントしよう?」

「うん!」

 小川のほとりの花畑で姉妹が花摘みを楽しんでいる。花畑には色とりどりの花が咲き乱れ、辺りは甘い香りに満たされていた。

「ねぇ、ママ。前おばあちゃんが、この辺りは全部荒れ地だったっていってたんだけど、それって本当?」

「なにそれ? そんなわけないよ、お姉ちゃん。だってこんなにもお花はたくさん咲いているし、畑にはたくさん野菜だってある。小麦も豊作だってパパが言ってたし」

 花々と戯れる我が子を愛おしそうに見つめていた母親が、子どもたちの問いかけに微笑んだ。

「おばあちゃんが言っていたことは本当よ。貴方たちが生まれる前までは、この村は荒れ地だったの。でも一人の花生みの力で、そんな荒れ地に緑が戻ってきたのよ」

「一人の花生み?」

「そう。ノア皇后のおかげで、こんなにも素敵な花畑が戻ってきたの」

「ノア皇后? ママ、あたしその方のお話が聞きたい!」

「あたしも聞きたい! ノア皇后のお話! ねぇ、ママ教えて?」

 姉妹は円らな瞳をキラキラと輝かせながら母親に飛びつく。そんな二人を抱き締めながら、母親が静かに言葉を紡ぐ。

「いいわ。教えてあげる。クレーア城に今もいらっしゃる、ノア皇后のことを」

 母親が静かに話し出すと、子供たちは遥か遠くに見えるクレーア城を見つめた。

「貴方たちが生まれる前のお話のことよ。リリス村という所に、一人の優れた花生みの少年が住んでいたの。その少年の名はノア。ノアはね……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る