第55話 ワイの知らなかったアークたその話や




 ドラゴンが翼を休めるために、赤茶けた荒野の大きな岩影に降り立ったんや。

 地獄にいたワイとクソイケメンにとっては太陽があるのはありがたかったわ。

 クソイケメンに至ってはかなり久々の太陽やったらしくて、空を見上げるのも眩しそうやった。


 風はやけに冷たくて、死んだ世界を象徴しているみたいやった。

 ワイはドラゴンの背中から降りて、慣れない空の旅でガクガクになった膝をさすりながら、隣に座るクソイケメンを見たんや。


「……なぁ、アシェル。お前、さっき『神を探しに行こう』なんて言ってたけど、そもそも最後にアークたそに会ったとき、何があったんや?」


 もうさっぱりわからへん。

 ワイが魔王城にいたとき、何があったんやろか。

 ワイが前世でレジェンド級ニートやっとったときは外のニュースなんて即Sでしか知らんかったし、興味もなかったけど……

 流石にワイの常識が覆されまくっとって大混乱や。

 説明キボンヌ。


 ワイの問いに、クソイケメンは地面の砂を無意味に弄りながら、遠い目をして話し始めたんや。


「…………」


 早く話せや、変な間いらんねん。


「……随分前の事だけど、はっきり思い出せるよ……最後に祠が破壊され、封印が完全に解かれたあの日、世界は一変した」


 そう言われるとほんまに居心地悪いンゴ。

 クソイケメンは「お前のせいだ」とは言わんかったけど、計画したんはアークたそでも、しっかり協力したのはワイや。

 ののしられたりせんのがまた居心地悪いわ。


「解き放たれたドラゴンたちが、各地で猛攻を開始したんだ。私たち人間……いや、他の種族も総出で抗ったよ。だが、神に祝福されたドラゴンたちに、ただの生き物が敵うはずもなかった」


 クソイケメンの視線が、少し離れたところで眠っているドラゴンに向いた。

 猛威を振るったドラゴンに助けられるのは、かなり複雑な気持ちなのかも知れないンゴ。

 ワイはドラゴンに乗って旅するのは普通に楽しいけどなぁ。


『ナビゲーター:「呑気で草」』

「しゃーないやろ、ドラゴンにされた仕打ちとしては服を消し炭にされたくらいや。背中に乗って冒険するのは普通に楽しいわ」

『ナビゲーター:「アシェルとの温度差で時空が割れるわ」』


 大袈裟やな……と思ったけど、クソイケメンはめっちゃ深刻そうな顔してたンゴ。

 ほんまにワイと温度差がめっちゃえぐいわ。


「白聖盟の騎士たちは次々とドラゴンに焼かれ、喰われた。それでも私は諦めなかった。ドラゴンの猛攻を潜り抜け、奇跡的に神の前まで辿り着くことができたんだ」


 うわ、どんだけこいつアークたそと話したいねん。

 ほんまキショイわ。


 クソイケメンとワイの温度差は太陽の温度と絶対零度くらい違う気がしてきたンゴ。


「あの時、神は初めて言葉を発した」


 ほーん……


「で……なんて言ったんや?」

「『信仰を持っている人間は、本当にしぶといね』……と」


 草。

 絶対好かれてないやん。

 絶対嫌われてるの確定演出やん。


「あの方は今まで一度も私と目すら合わせてくれなかった。だから、その時初めて私を一瞥してくれたことに、恐怖よりも歓喜で震えたんだよ」


 クソイケメンはそのときの事がほんまに嬉しかったんか、声を震わせて喜んどった。

 ほんまにキショイ。

 アークたそのことになるとほんまにキショイキャラになるわこいつ。

 どこまで行っても救いようのないストーカー気質や。


「私は叫んだ。『神よ、今までどこにいらしたのですか! 何故、このような暴挙を!?』とな」


 まぁ、それはワイも気になっとるけど……


「神は、私の問いに何かを答えてくださった」

「…………」


 なんて言ったんやろか、と、ワイはクソイケメンの言葉を待った。


「……だが……私には聞き取れなかった」


 は……?


 なんでやねん。

 神の言葉を聞き逃すことなんてこいつに限ってあり得るんか。


 結局何も分からへんやんけ!


「私が気づいたときには、もう神の姿は消えていた」


 結局、このクソイケメンはアークたそのこと何も知らんのやないか。

 これ以上聞いてても不快って感情以外の何かは得られるんか……?


「それで、どこでお前は不死になったんや?」

「恐らくそのときだ。だが、あの時は気づかなかった」


 まぁ、急に不死になったとか実感わかないよなぁ……ワイもまだ実感が沸かないンゴ。


「気づいたのは、私がドラゴンの執拗な一撃を受け、身体がバラバラになったときだ……普通なら即死だった。だが、私の肉体は千切れた先から繋がり、ゆっくりではあるが元通りになった」


 グロいンゴ。

 ワイはリョナラーちゃうんやけど。

 グロいのは勘弁してほしいやで。


「私はそのとき、神の加護を授かったのだと狂喜乱舞したよ」

「お前、どこまでもアークたそに心酔しとるな」

「神の力の一端に触れたのだ、私が心から望んでいたことが起きたのだから」


 うげ……宗教徒って怖いンゴ。

 アークたそのことを神って呼んどるけど、要するにカルトみたいなもんやろ。

 そういう考え方が怖すぎるわ。


「地獄の存在は噂で知っていた。だが、不老不死の本当の苦しみなど当時の私には分からなかったんだ。私は加護を誇り、消えた神を追い続けた」

「……」

「だが……5年が経った時、川の水面に映った自分の顔を見て、私は老いていることに気づいた。髪には白髪が混じり、顔には深い皺が刻まれていた」


 ワイも不老不死やなかったらこんな感じになってたんやろか。

 くたくたのじいさんになってたら……アークたそに幻滅されてしまうンゴ。


「私は悟ったんだ。神は私に『死』を禁じたが、『老い』は止めなかったのだと。死なない身体のまま、老衰を極めたらどうなるのか……想像を絶する恐怖が私を襲った。私は救いを求め、神がたまに現れるという噂のあったあの『地獄』に、藁にも縋る思いで踏み込んだ」


 あーあ……完全に詰んでるやんけ。

 オワタな。

 藁に縋りついて結局地獄に落ちとるやんけ。


「それが最後だ。地獄に囚われ、出ることもできず、ただ朽ち果てていく肉体を引きずりながら、数十年を過ごすことになった……」


 目新しい情報はなかったンゴ。

 で、分かったことは……


「……アークたそ、お前のことほんまに嫌いなんやな」


 ワイは思わず本音が漏れてもうた。

 死なせないけど老けさせるなんて、ただの不老不死よりよっぽどエグい嫌がらせやんけ。

 やっぱり白聖盟の組織のトップやったから、相当嫌われてたんやろか。


「……私は知りたいのだ。神の真意を」


 嫌われてる事は絶対に認めようとせんやんけ。

 真意がどんなものなのか分からへんけど、少なくとも絶対言える事としてはこいつはアークたそに嫌われとる。

 それは間違いないンゴ。

 それでもそれを受け入れないのは往生際が悪すぎるわ。


 クソイケメンの執念は、老いてもなお消えてへんかった。

 でも、その話を聞いてワイの胸の奥も少しザワついたんや。


 アークたそはアシェルを嫌っていたから、こんな「欠落した不老不死」を与えた。

 じゃあ、ワイに「完璧な不老不死」をくれたのは、なんでなんや?

 それとも……さらに恐ろしい「役割」があるからなんか?


「……とりあえず、休み終わったらすぐ出発するンゴ。アークたそに親しいその古龍ってやつに会えば、少しはマシな話が聞けるかもしれんしな」


 ワイは立ち上がり、砂を払った。


 アークたそのことを知れば知るほど、ワイの知っている「可愛い嫁」のイメージが、冷酷な「邪神」の影に飲み込まれていくような気がして、怖くてたまらんかった。


 どこにいるんや?

 何をしてるんや?

 答えが知りたいンゴ。


【切実】ワイ、嫁の過去が闇深すぎて、再会した時の第一声に迷うンゴ。



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【悲報】ニート ワイ、異世界でチートなし ~しかも1日12時間以上屋内にいたら爆発する呪いかかってるンゴ~ 毒の徒華 @dokunoadabana

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