星空観望会

まっちゃん

第1話 星空観望会

 「こんばんわー。こちらの望遠鏡ではお月さまがご覧になれます。どうぞー」

 「お月さまだって。見てみたい! …どうやって見るの?」

 「望遠鏡にはなるべく触らないようにして、ここ接眼レンズを上からこんな風のぞくようにして見てください。デコボコがたくさん見えたら、それがお月さんです。」

 「うわぁ。デコボコがいっぱい!」

 「デコボコのことをクレーターといいます。今日は三日月ですから、クレーターが見やすいですね。」

 「へぇ。」

 「数えていいよ。」

 「えええ?ようし、1,2,3,4,5,6,7,8,9,10! あーもうだめだー」

 「あはは。」

 「あれ? お月さま、左右逆じゃない?」

 「いいところに気が付きましたね。実は望遠鏡は上下左右逆に見えるものなんです。これを普段見えているように修正するにはもう一枚レンズが必要になります。そうすると暗くなってしまうんですね。天体観測は明るさが第一ですので、写真に撮って、後でひっくり返せばよい。そういった考え方です。今は見えやすいように、ここにプリズムがあります。ですから左右だけ逆に見える。そんな仕組みです。」

 「難しいですけど、面白いですね!」

 「ありがとうございました。よろしければ他の望遠鏡もご覧になってください。」


***********


 「これは何を見ているんですか?」

 「アルビレオです。天上の宝石と言われる美しい二重星です。」

 「へぇ。」

 「青色の星とオレンジ色の星が寄り添うように並んでいます。どうぞご覧になってください。」

 「あぁ、本当だ!きれい!」

 「宮沢賢治は”銀河鉄道の夜”の中で、この二重星を"サファイア"と"トパーズ"の二つの宝石に喩えました。」

 「きれいですねー。」

 「星の色はその星の表面の温度を表しています。赤い星は温度が低く、青い星は高いんです。暖色、寒色って言いますけれども、実は逆なんですね。」

 「へぇぇ、不思議ですねぇ。ありがとうございました。」

 「ありがとうございました。よろしければ他の望遠鏡もご覧になってください。」


***********


 「こんばんは。ただいま、こちらの望遠鏡では死んだ星の姿、メシエ27、こぎつね座のあれい星雲がご覧になれます。」

 「死んだ星? どうなっているの?」

 「ご覧になると、もやもやとした、灰色の煙のようなものが見えると思います。それが大爆発を起こした星が吐き出したガスなんです。」

 「…難しいですけれども、雲のようにも見えます。かげろうというか、まぼろしでも見たような…」

 「私たちの太陽の寿命は約100億年、今50億年ほど経ったところです。あと50億年すると太陽も寿命を迎え、爆発を起こしてこのような姿になると考えられています。でも、実際にどのような姿になるかは誰にもわかりません。見たい方は50億年、頑張って長生きして見てみましょう。」

 「あはは。」

 「あはは。」


***********


 「晴れてるね。」

 「うん。」

 「三日月、綺麗だね。」

 「うん。」

 「おじいちゃん、やってるかなぁ。」

 「この天気だもん、やってるよ。」

 「おじいちゃん、星を見るのも、見せるのも大好きだったもんね。」

 「天国の観望会かぁ、賑やかなんだろうなぁ。」


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(2025.09.12 了)

三題噺「不思議」「左右」「幻」

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