線香花火
ササキタツオ
第1話
夏に【暴走】は付き物だ。高校最後の夏。私は親友の大輝と花火をする計画を実行することにした。それは二人だけの、二人きりの、秘密の夏祭りになるはずだった。
それなのに。大輝は空気もまず、空気も読めず、いろいろな男子を誘い出した。
だから私も意地になって、クラスの女子たちを片っ端から花火に誘った。
そんなわけで、二人きりのはずだった花火は、結局クラス全体でやる花火大会のようになってしまった。
なんてことだ。こんなはずじゃなかったのに……。
私と大輝は、いつのまにか花火大会実行委員のように、駆け回っていた。
大輝と買い出しに行った時も、コンビニではクラスの人数分の花火なんて買えなくて、結局ネットで注文して仕入れたほどであった。
そして、花火大会当日。クラスのみんなは大盛り上がり。打ち上げ系の花火で奇声をあげたり、手持ち花火で円を作ってエモい写真を撮るなどしていた。
私は実行委員として見守ることを決めていた。だから花火には一切触れることはできなかった。
大輝はというと、クラスの男子たちと、じゃれ合って、楽しそうに花火をしていた。ああ、脳天気な奴め、と私は思った。
そして、花火大会が終わった。クラスのみんなは解散になり、残った私が後片づけをしていると、大輝が線香花火を差し出してきた。
「お前、今日花火してなかっただろ」
私は大輝のその言葉に泣きそうになった。そういうところが好きなんだよ、と私は大声で叫んでやろうかと思った。
大輝と一緒に私は線香花火に火をつけた。パチパチと小さな火花を散らしながら、線香花火は赤く輝きを放った。
大輝を見る。大輝も私を見る。見つめ合う私たちだけの時間。大輝の瞳に線香花火の光が反射していた。線香花火が落ちる。夢から覚めたように現実に引き戻される。
「あー終わったな」
大輝は残念そうに言った。
「また来年もやろうよ」
私は思いきって言った。大輝は少し考えてから「いいね」と笑った。
私たちの夏はまだ続く。
線香花火 ササキタツオ @sasatatsu
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