ハーゲンダッツ1年分!

遠山悠里

 

というわけで、賞品のハーゲンダッツ1年分が送られてきた。


俺は参加賞のハーゲンダッツが目当てだった。

PVが3桁にも充たず、ろくにフォロワーとの交流もしていない俺は、はなから賞を取ることなど期待してはいない。ただ、参加賞として、百名様にハーゲンダッツが当たるというのは魅力的だった。


高級アイスだ。ラクトアイスでもアイスミルクでもなくアイスクリームが食べられる。

おまけに文字数も少ない。

俺は気軽な気持ちで、1時間ぐらいで書いた短編を応募した。そしてすぐにそのことは、忘れてしまった。


だから、俺は、募集企画をスクロールした下の方に、一等賞品として、『ハーゲンダッツ1年分』とあるのを全く知らなかった。


俺は、受賞したことを、宅配便の人が来て初めて知った。


「クールで届いていますので、すぐに冷凍庫に入れてください」

「は……はい……」


結構大きな箱だった。


開けてみると、受賞を告げる手紙と共に、ハーゲンダッツ365個が入っていた。


俺は青ざめた。


とにかく、冷凍庫を空けなければならない。


うちの冷蔵庫は業務用のような巨大な冷蔵庫ではない。普通の家庭用の冷蔵庫だ。よって、冷凍庫も標準サイズ。中には冷凍餃子や冷凍ピザや冷凍したご飯が詰まっている。俺はもったいないと思いながらも、それらを冷蔵庫に移していく。それらは、これから2,3日で食べればいい。でも、ハーゲンダッツ様は違う。ハーゲンダッツ様は平民ではない。お貴族様だ。お貴族様のためには、下々のモノには退場してもらわねばならない。


俺は、なんとか365個のハーゲンダッツを全部冷凍庫に仕舞うことに成功した。かなり苦労した。そもそもアイスが丸い形をしているからかさばるのだ。立方体だったら、こんなに苦労しなかったのに。


さて、次が問題だ。


別に1年分となっているからと言って、きっかり1年で食べなければいけないものではない。そもそも、アイスには賞味期限がない。ないということは、百年経っても大丈夫だということだ。まあ、百年前のアイスを食べる度胸はないが。

とにかく、このまま冷凍庫をハーゲンダッツに占拠されているわけにはいかない。自炊生活に冷凍庫は欠かせない。というわけで、俺は、その日から自炊メニューに積極的にハーゲンダッツを取り入れることとした。


ハーゲンダッツサラダ

ハーゲンダッツの天ぷら

ハーゲンダッツの味噌汁

ハーゲンダッツカレー

……


ハーゲンダッツを載せた寿司も作ってみたが、酢飯との相性はお世辞にもよくなかった。


俺はカクヨムで、毎日その日のハーゲンダッツのレシピをエッセイに書いて投稿していたら、それがなかなか好調だった。

俺は気を良くして、軽い気持ちで、それらをまとめて、エッセイコンテストに応募してみることにした。


それが、賞を取り、『ハーゲンダッツ 10年分』が送られてきて青ざめるのは、またのちの話である。





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