第8話 アリスと英雄の決着

 アリスのレイピアはパワーレスの左肩に当たる。そしてそのまま、突き刺さるだろうとアリスは思った。

 だが、パワーレスは魔力を左肩に集中させることで、レイピアは1cmほどしか刺さっていなかった。

 パワーレスはそのままアリスの腹に蹴りを入れ、神威のいる方向に吹き飛ばす。


「ウグッ」


 血を吐き散らしながらアリスは飛んだ。だが、ただ飛んでいたわけではなく、受け身の体勢をとりながらだ。

 神威は飛んでくる私に一瞬驚いたがすぐさま行動を開始する。


「〈撫風なでかぜ〉」


 神威の放った風魔法はアリスを撫でるように包み込み、衝撃を吸収しておろす。


「ごめん、ありがと。助かった」


 神威の使う殆どの魔法は家系魔法といわれるもので、その地を受け継ぐ者の皆が使える魔法だ。だが、それとは別に神威の魔法もある。それはさっきの〈撫風〉などの魔法が3つほどある。

 だが、家系魔法は洗練されていて強いため、神威はそちらをよく使う。

 何代にもおよび洗練された魔法をもパワーレスは捻りつぶす。

 やはり、彼はこの世の中でも最強の一角にいるといっても過言ではない。その者を相手取ってここまで戦えている時点でアリスと神威は十分にすごいことだろう。


「あぁ、こりゃ左手は当分使えんのう」


 アリスの放った〈雷光一閃〉にやられたのだろう。パワーレスは左肩をしびらして、動かせない状態にあるようだ。


「参る〈風速ふうそく〉」


 神威は刀を手に地を駆ける。足に風魔法を使い、砂埃を大きくたたせる。

 今攻撃を仕掛けるのは至極真っ当当然なことだ。なぜなら、今が絶好の好機であり、魔力が二人ともつきかけなのである。


「はぁ、読みやすいのう。これしき、片腕でどうでもできるわい」


 そういいながら、パワーレスが一瞬ぶれたと思ったら、その瞬間、姿が消えた。

 その瞬間、神威が吹っ飛ばされた。


「ぐふッ」


 そのまま神威は、壁にぶつかった。あちこちから血が滴っている。ギリギリ立つのが限界で、今にも倒れそうだ。

 だが、そんな極限状態にあっても魔法を放つ。


「紅桜流刀術・裏 炎葬えんそう


 神威は蒼い炎を纏う。その炎は儚く美しく見えた。

 この魔法は紅桜流刀術の中で禁忌とされる業である。これは、己の精神、体力、魔力など持ち得るものすべてを炎に変える。

 神威は今まで使ったことはなかった。だが、この化け物にどうしても勝ってみたい。という欲望が彼に禁忌の鎖を嚙みちぎらせたのだろう。


「さぁ、刀と炎の宴はここからでござる」


 神威は口裂け女を連想させるほどにやついた。


「燃えろ。燃えろ。燃えろぉぉぉ。」


 神威は笑いながら炎を放つ。その姿はなんとも脆く狂っていた。


「あの魔法はいまだに制御しきれていないようじゃの。...じゃが、そういう時は心の底に眠る欲望などが出てくるものじゃ。神威、これが貴様の真の心か?」


 返事は帰ってこなかった。ただ、周りは蒼い炎で埋め尽くされているだけだった。

 神威は、嗤いながら蒼い炎を放ちまくる。あたり一帯が、蒼い炎に埋め尽くされるまで。

 パワーレスですら、あの炎には近づかなかった。

 神威はボロボロの体で、ふらふらしながら歩いていた。そう、体に無理を言わせて、無理やり歩いているようだった。

 いや、それ以前に、意識がないようにも思えた。ただ、欲に任せて暴れているように。

 あの魔法は力が大きいが、それ以外の物を全て削いでいるようだった。

 そして、アリスは思い出した。あの魔法が、紅桜家の禁忌の魔法なのだと。


「〈風脚〉」


 アリスは中高く飛ぶ。炎の届かない高さまで飛んで宙を駆ける。

 今すぐ神威のもとへと駆けなければならない。そうしなければ、神威が神威でなくなってしまう。なぜか、そう思ってしまった。

 アリスの〈風脚〉は思いのほか、力がこもっていて、空高くに飛んだ。


「神威ぃぃぃ」


 アリスは神威のもとへと落下する。

 神威はほとんどの魔力や体力を使ってほとんど動ける状態ではなかった。


「すこし、休んでて〈雷竜〉」


 少し電圧の小さい〈雷竜〉で気絶させた。


「〈神よ、傷つきし我ら子らに今、天の加護をかの者に・輪廻回生〉」


 神威の体力などを少し回復させてから炎のないところへと連れて行った。


「さぁ、レス爺様はっと...いた」


 レス爺様を見つけると走る。どう攻撃しようかと思うと頭に浮かぶ夢の記憶。

 あの夢の中でウサギは、あの不思議な世界がアリスの魔法といった。

 なら、あの空間のような現象が、魔法として使えるのだろうか。

 ウサギが言うには自由な魔法らしい。なら、雷竜を大きくして放てるだろうかと思い、アリスは行動に移した。


「〈雷竜・巨大化〉」


 できてしまった。今までの10倍はあるほどの雷竜がパワーレスに走る。だが、魔欲が思いのほか吸われ、もう魔法がほとんど使えない状態となった。


「ほう?こんな力が...」


 パワーレスは右手に全魔力を集中させ迎え撃つ。

 そして、〈雷竜〉は消滅する。が、パワーレスの右手はしびれて使い物にならないほどだった。

 アリスがレイピアを構えるとパワーレスは言葉を放つ。


「降参じゃ」


 パワーレスは降参した。


「いやぁ、見事なもんじゃったよ。最初に左肩をやられて、次に右足を焼かれて、体力ごっそり減らされて、とどめにあのでかい雷。いい作戦じゃったよ」


(それら全て作戦2のごり押しじゃないかな?まぁごり押しも立派な作戦か)


「今度は私が世界を見て回った後にまた、戦おうね。今度は本気で」


 アリスのその言葉にパワーレスは驚いた表情をする。まさか、少し手加減をしていたことに気づいてるとは思わなかったのだろう。

 手加減した理由は、試験を成り立たせるためと自信をつけさせるためだった。

 だが、今のアリスには自信がついたかのように思えた。


「それまで頑張って生きねばなぁ」


 パワーレスは呟きをこぼす。

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