第55話 雪野にはまだ早い(キュンキュン)


「ごちそうさまでした……っ!」


 雪野は大満足でスイーツを平らげ、俺もコーヒーをしっかり楽しんでから喫茶店を後にする。


 やはりここの喫茶店は何度来ても良い。


 俺は喫茶店を写真に収めると、スマホの中にある写真を確認した。

 店の写真も撮れたし、コーヒーとスイーツ、さらにスイーツを食べる雪野も撮れた。


 改めてこうやって写真で見ても、やはり雪野は天使と呼ばれるのもよく分かるくらい、可愛いと思う。

 食べる量は天使というよりも悪魔だが。


「ねえ温森くん」

「えっ、べ、別に悪魔だなんて思ってないぞ!」

「悪魔……?」

「あっ……」


 最近、考えていることをすぐに雪野に読まれるので、その癖で焦って余計なことを口にしてしまった。


「悪魔? どういうこと?」

「な、なんでもない! ただ、スマホで撮った雪野の写真が、天使みたいに可愛いと思ったんだ! 悪魔だなんて言ってない!」

「可愛い……ふふっ。素直でよろしい」


 さらにさっきの発言を追求されると思いきや、なぜかご機嫌な様子の雪野。


 ま、まあ、なんとかなったなら、よしとしよう。うん。


「わたしのことはさておき、さっきの喫茶店で、次はわたしの好きなものって言ってたけど……次はなに?」


 ああ、雪野はそれを聞きたくて話しかけてきたのか。


「着いてから言おうと思ってたんだが、先に聞きたいか?」

「待って。当てたい」

「当てたい? あ、ああ。いいけど」


 まあ雪野自身の好きなものなんだし、当てるも何も、すぐに分かるものだと思うけど。


「わたしの好きなものは……二つある。一つは、抹茶」


 おっと……もう正解が出たんだが。


 出オチ感がすごい。


「もう一つは……」


 雪野は俺の方を上目遣いでチラチラ見てくる。

 その長いまつ毛がパチパチと忙しそうに上下した。


 な、なんだなんだ? もう一つはトンカツとか言わないだろうな。


「……や、やっぱり、ナイショ。まだ我慢」

「トンカツを!?」

「トンカツ? あれは至高だから含まない」


 至高、いただきました。

 雪野の中のランキングでは、どうやら好きの上に至高という名のトンカツが存在するらしい。


 抹茶より上がトンカツ……なかなか派手な構図だが、まあいいや。


「っと、そんな話をしているうちに到着だな」

「……っ!? これって!」


「ああ、今度は雪野が好きそうな抹茶ラテが美味しい、喫茶店だ」


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