エピローグ 勇者のスープ伝説

 ――

 王都・祝祭の日


 魔王討伐から一週間。王都はお祭り騒ぎだった。

 広場には露店が並び、子供たちが走り回り、兵士たちが酒を酌み交わしている。


 そしてその中心に――俺がいた。


「勇者様! スープをください!」

「俺にもだ! あの魔王を倒したスープを!」


 行列ができていた。そう、俺は魔王を倒したあとも結局、スープを作り続けていたのだ。


 ルナちゃんが笑いながら杖を振る。

「お兄さん、魔王討伐のご褒美がスープ屋台って、ちょっと地味じゃない?」


「地味じゃない、これは大事な仕事だ」


 兵士たちがスープを飲んで力を取り戻し、王女セリーナが笑顔で民衆に手を振る。

 俺は鍋をかき混ぜながら思う。――あの日、もしスープがなかったら、俺たちはきっと負けていた。


 王様が立ち上がり、俺たちに向かって高らかに宣言した。

「勇者佐藤健一、ルナ、ロイド、そして仲間たちよ! そなたらの勇気と力により、この国は救われた!」


 民衆が歓声を上げ、花びらが舞った。


 ――

 それぞれの未来


 ルナちゃんは王立魔法学院の特別顧問になり、子供たちに魔法を教えることになった。

「お兄さんのスープがあれば、魔法の授業も楽勝だね!」と笑いながら。


 ロイドさんは王国騎士団の団長に就任し、王都を守り続けることを誓った。

「勇者様、次に宴を開くときは、私が酒を用意しますぞ」


 セリーナ王女は王国を支える新しい女王として戴冠した。

「勇者様、これからも国の友として力を貸してくださいね」


 俺はと言えば……


 ――

 勇者からシェフへ


「お兄さん、本当にスープ屋やるの?」ルナちゃんが聞く。


「やるさ。これが俺の戦い方だ」


 王都の一角に、小さなスープ屋台を開いた。名前は――


《勇者のスープ亭》


 魔王を倒したスープの味を求めて、兵士も旅人も王族さえもやってくる。


 俺は鍋をかき混ぜながら、少しだけ空を見上げた。


 魔王との戦いの日々。仲間たちとの絆。

 そして――スープの力が世界を救ったという、馬鹿みたいな伝説。


「今日も、いいスープができたな」


 王都に、香ばしい匂いが再び広がっていく――。


 ――


 勇者佐藤健一の物語は、ここでひとまず幕を閉じる。

 だが《勇者のスープ亭》の伝説は、この先も人々の記憶に残り続けるだろう――。

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追放されたけど、最強スキル《料理》で異世界無双します @keta3

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