第22話 スープの奇跡と最後の一撃
――
魔王の最終形態
広間全体が黒い瘴気で覆われた。魔王の体は巨大化し、背中から伸びた黒翼が天井を貫き、赤い瞳が獲物を狙う獣のように輝いている。
「人間ども……これが真の魔王だ。絶望の中で滅びるがいい!」
魔王の声と同時に、黒雷が床を走り、兵士たちが次々に吹き飛ばされる。ロイドさんが必死に剣で受け止めるが、魔王の力は先ほどまでとは比べ物にならない。
「くっ……! おい勇者! まだスープはあるのか!?」
「もちろんだ!」
俺は鍋を抱え、スキル《料理》を最大出力で発動。今までにない速度でスープを作り、負傷した兵士たちに振る舞った。飲んだ瞬間、彼らの傷が癒え、再び戦場に立ち戻っていく。
「勇者様のスープだ! まだ戦えるぞ!」
兵士たちの声が広間に響く。
――
奇跡のスープ
だが、普通のスープではもう限界だ。魔王の圧倒的な力を前に、いつかは押し潰される。俺は鍋を握りしめ、心の中で強く祈った。
(頼む……みんなを守れるスープを……!)
その瞬間、スキル《料理》がこれまでにない光を放った。鍋の中で黄金色のスープが渦を巻き、まるで聖なる力が宿ったかのように輝き始める。
「な、なんだこの光は……?」
ルナちゃんが驚き、ロイドさんも目を見開いた。
「これが……勇者のスープの最終形態……!」
俺は完成したスープをルナちゃんとロイドさんに手渡した。
「これを飲め! この一撃で終わらせるんだ!」
二人がスープを飲み干すと、全身が眩い光に包まれた。魔力と力が爆発的に高まり、その場の全員が圧倒されるほどだ。
――
最後の一撃
「ロイドさん、ルナちゃん! 一緒に行くぞ!」
「おう!」
「任せて、お兄さん!」
ルナちゃんが杖を高く掲げ、これまで最大の炎魔法を詠唱する。ロイドさんは剣を構え、足元の石床を砕きながら魔王に向かって突進した。
「人間ごときが……調子に乗るなぁぁぁっ!!」
魔王の黒い剣が振り下ろされ、広間が闇に包まれる。だがその瞬間、ルナちゃんの炎の槍が魔王の腕を貫き、ロイドさんの剣が黒い魔力を切り裂いた。
「今だぁぁぁぁぁ!!!」
ロイドさんが渾身の力で魔王の胸を貫き、ルナちゃんの魔法が爆発的な炎となって魔王の体を包む。
魔王が絶叫し、広間が赤い光に染まった。
――
戦いの終焉
「バ、バカな……人間ごときに……この私が……」
魔王の体が崩れ落ち、黒い霧となって消えていく。最後に赤い瞳が恨めしそうに俺たちを見たが、やがて完全に消滅した。
広間に静寂が訪れる。
「……終わったのか?」
兵士の一人が呟き、やがて広間に歓声が広がった。
「魔王が……倒れたぞ!」
「勇者様が勝ったんだ!」
ルナちゃんは杖を下ろし、力が抜けたように座り込んだ。
「お兄さん……やったね」
「ああ、やったな」
ロイドさんが剣を収め、俺の肩を軽く叩いた。
「お前のスープがなければ、絶対に勝てなかった。ありがとう、勇者」
俺は少し照れながらも微笑んだ。
――
新たな旅立ち
魔王が倒れ、王国には平和が戻った。しかし、これが終わりではない。まだ各地には魔王軍の残党が残っているし、復興もしなければならない。
「お兄さん、これからどうするの?」
ルナちゃんが俺を見上げる。俺は少し考えてから、笑顔で答えた。
「とりあえず……みんなにスープを振る舞って、元気にするところからだな」
「やっぱりスープなんだね!」
ルナちゃんが笑い、兵士たちや民衆も笑顔を見せた。
こうして俺たちの魔王討伐の旅は終わり、新しい冒険が始まろうとしていた――。
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