第13話 黒の森と裏切りの影

 ――

 黒の森へ


 王都を出発して三日。俺たち魔王討伐隊は、ついに黒の森の入り口に到着した。


 ここは魔王城への唯一の道だが、同時に人々が決して足を踏み入れない“死の森”とも呼ばれている。常に薄暗く、霧が立ち込め、夜になると魔物がうごめく不気味な場所だ。


「お兄さん、ここが黒の森?」


 ルナちゃんが不安げに杖を握る。ロイドさんは剣の柄に手を置き、真剣な表情で森を見つめていた。


「魔物の気配が濃い。ここからが本番だ」


 俺は頷きながらも、鍋を荷台から降ろした。


「よし、まずはスープで腹ごしらえだな」


 討伐隊の兵士たちは緊張で顔が強張っていたが、熱々のスープを飲むと少しだけ表情が和らいだ。スキル《料理》で作るスープはただの食事じゃない。魔力と体力を同時に回復し、士気まで高めてくれる。


「勇者様のスープがあれば、きっと魔王軍にも負けません!」


 兵士の一人がそう言ってくれた。俺は微笑みながらも、内心は警戒を強めていた。黒の森には、魔王軍の刺客が潜んでいるという噂がある。俺たちの進軍を止めるためなら、奴らがどんな手段を使ってくるか分からない。


 ――

 魔王軍の刺客


 その夜、討伐隊が森の中で野営を始めた頃だった。


 不気味な笑い声が霧の中から響いた。


「フフフ……勇者よ、ここまで来たか」


 霧の奥から現れたのは、漆黒のマントを羽織った長身の男だった。手には奇妙な鎌のような武器を持ち、目は血のように赤い。


「魔王軍……!」


 ロイドさんが剣を構える。ルナちゃんも杖を握りしめた。


 男はにやりと笑い、名乗った。


「我が名はザハル。魔王様の命により、貴様らの命をここで狩る」


 そう言うと同時に、奴は霧の中に消えたかと思えば、次の瞬間には兵士の背後に回り込み、鎌が閃いた。


「速い!」


 ロイドさんが辛うじて防いだが、ザハルの動きは人間離れしている。しかも、一撃ごとに不気味な紫色の魔力が弾けた。


「お兄さん! スープを!!」


 ルナちゃんが叫ぶ。


「分かってる!」


 俺は慌てて特製スープを作り、兵士やルナちゃんに振る舞った。体が光に包まれ、彼らの力が一気に高まる。


「これで負けない!」


 ルナちゃんが強化魔法を放ち、ロイドさんが渾身の一撃を繰り出す。しかしザハルは霧の中に溶けるように避け、執拗に俺を狙ってきた。


「勇者よ、まず貴様からだ」


「うおおおおおお!?」


 俺は必死に逃げ回りながら鍋を振る。こんな命がけのスープ作り、聞いたことがないぞ!


 ――

 謎の剣士


 その時だった。


「そこまでだ、ザハル!」


 霧の奥から新たな影が飛び出し、ザハルの鎌を弾き飛ばした。銀色の髪をなびかせた若い剣士が俺たちの前に立つ。


「誰だ、お前は……」


 ザハルが目を細める。剣士は鋭い瞳で奴を睨み返した。


「通りすがりの剣士だ。だが勇者を狙うなら、俺が相手になる」


 そう言うなり、剣士はザハルに斬りかかった。火花が散り、霧の中で剣戟が響き渡る。


 俺たちは呆然と見守るしかなかった。ルナちゃんがぽつりとつぶやく。


「なんか……かっこいい」


 ロイドさんも唸った。


「腕は確かだ。だがあの剣士、何者だ……?」


 ザハルは一瞬の隙を突かれ、傷を負った。赤い目が憎悪に燃える。


「チッ……今日のところは退いてやる」


 奴は霧の中に消え、夜の森から気配が消えた。


 ――

 新たな仲間


 剣士は血のついた剣を振り払い、俺たちの方を向いた。


「大丈夫か?」


「あ、ああ……助かったよ。ありがとう」


 俺が礼を言うと、彼は小さく頷いた。


「名はカイン。しがない剣士だ。だが魔王軍には恨みがある。もしよければ、討伐隊に加えてくれ」


 ルナちゃんがぱっと笑顔を見せた。


「もちろん! 強い仲間は大歓迎だよね、お兄さん!」


 ロイドさんもうなずく。


「腕は確かだ。共に行こう」


 こうしてカインという新たな仲間を得た俺たちは、再び魔王城を目指して進軍を開始した。だが、魔王軍の妨害はこれからさらに激しさを増していくのだった――。

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