第13話 ゴリラ、心境

檻を抜けて、逃げて、気がつけば夜の街にいた。

守った女性がいて、その人にゴリちゃんと呼ばれて。


ニューキングみたいなダサい名前なんて要らないと思ってたはずなのに、ゴリちゃんと呼ばれるたびに胸の奥が少し温かくなる。


(俺は……何者なんだろうな)


人間じゃない。ゴリラだ。

でも、ただのゴリラでもない。言葉を持っていて、考えていて、誇りだってまだ捨てちゃいない。


動物園では見世物だった。

群れでは王になった。

けどどちらも、本当の意味で俺”を認めてくれる場所じゃなかった。


昨日瑠璃が言ってくれた。「今はここにいる。それでいいじゃない」お、あの言葉が頭から離れない。


ここにいてもいい?俺が?檻じゃなくて、人間の世界に?

そんなのは心のどこかでは夢物語だと思ってた。


(でも……女の子たち、みんな守ってほしいって目で見てたな)


信じられない。

あんな視線、俺は人間のころだって受けたことがない。

会社では歯車で、動物園では見世物で、群れでは王でしかなかった。

でも、ここでは違った。


「ゴリちゃん、頼りにしてる」


「ありがとう」


「一緒にやっていこう」


そんな言葉が、胸にひとつひとつ積もっていく。

重たいけど、心地いい。

人間のころに欲しくて、でももらえなかった役割。

それを、ゴリラになった俺が、今さら与えられている。


(やってやる……!ゴリラの俺にできることは限られてる。けど、ゴリラの力は本物だ。ここでの居場所を作るためにがんばるぞ)


胸を叩く。ドン、ドン。

響いた音が、自分の体だけじゃなく心の奥にも返ってきた。

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