福岡国魔王女、夢崎月美
七国王会議が終了し、各王はそれぞれ自国への帰還準備を進めていた。
その中で、
「アウディ様……ちょっと、お話
その声は控えめながらも、どこか決意を秘めていた。
「ん? どうしたんだい、美沙……というより、様は要らないよ。以前みたいに呼んでくれて構わない」
「え、ええと……つ、つい口に出て
美沙は照れくさそうに頭をかきながら、はにかんだ笑みを浮かべる。
だがすぐに表情を引き締め、真剣な眼差しでアウディを見つめた。
「それじゃ……アウディ兄さん。お願いごとがあるとよ」
「うん、どんなお願いだい?」
アウディも、ただ事ではないと察したのか、微笑みを消して真剣な表情に変わる。
そして、美沙が口にしたのは――
「噂の執事君……ラーヴィ君
突然名指しされた人物の名に、アウディは一瞬だけ目を細めた。
だがすぐに、穏やかな笑みを浮かべて答える。
「わかった。ただし、彼の意向を聞いてからでもいいかい? 命令よりも、彼自身の意思を尊重したいんだ」
その言葉に、美沙はぱっと顔を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「えへへ♪ アウディ兄さん、ありがとう♪ ウチが直接お願いに、福岡に行きたいところ
目を伏せながら、国を空ける余裕はない事を、暗示させながらも、考えていた手段をそっと口にした。
「娘を、使者として使わすけん。いい? 兄さん……」
アウディを兄と呼ぶ美沙。その表情は憂いと、情愛が含まれており、仲間の類ではないように見える。
「もちろん。問題ないよ。君の娘、
そして、静かに――新たな物語の幕が開かれた。
□ ■ □ ■
福岡国歴224年。6月9日の月曜日。早朝の6時。
梅雨の時期特有の、しとしと雨が朝から降り注いでいる。
アタシは
福岡国を治める、魔王、アウディ・ヴィデバラン・夢崎の娘である、第一魔王女。
ん~~~、この低気圧って、苦手。
耳と脳が繋がる個所が、ズンズンと、寝起きの頭に広がる感覚……
渇水よりはましなんだけどさ?
気だるい、休み明けの登校に、ケッコーダルダルなテンションにしてくるぅ~!
「くぁ~、んま、休
アタシは身を起こして、寝巻の締め付けを緩め、肩首のコリをほぐす。
漆黒の長い髪を、櫛を使って、寝癖を整える。
髪の毛の手入れは、寝る前から怠ってはいない。
魔王女たるもの、身だしなみはしっかりとする。これは、アタシのポリシーだ。
国を代表する、プリンセスなんだもの。
朝の顔も戦闘態勢でなきゃね。醜態は、敵に見せる隙になってしまう
髪を整えた後は、鏡で顔のチェック。
パパ譲りの紅い瞳は問題なし。充血もなし、顔のむくみもなし。
素手で、顔の様子をチェック。お肌の調子はまぁまぁね。
洗顔所に向かい、キレイに手入れされた蛇口から水を出し、添え付けのコップに水を注ぎ入れる。
一口含み、うがいをし、ぺっと吐き出す……
舌先で歯の具合を確認しながら、歯ブラシでシャッシャとブラッシングをする。
再び水を口に含んでうがいのあと、水をそっと吐き出す。
ん~♪ 口内の調子は上等♪ つるつるピカピカ純白の歯♪
後は洗顔。
エンジニアのルミィアが開発した、『ふわふわ泡洗顔
それを右手で合わせ馴染ませた後、顔にまんべんなく泡を広げ、顔全体をふわふわの泡で包み込む。
プチプチっとした感触が、肌を心地よく包み込み、不純物がふわっと浮き上がるような、心地よい感触……
ん~♡ アタシの肌、生まれ変わってるぅ~♡
馴染ませた後は、しっかり水で洗い落し、ふわふわのタオルでそっと濡れた肌の水滴をぬぐう。
すっぴん顔のアタシが、鏡の前に映る。
「……アイツは、これ……どう思う
ふと、想い人が、今のアタシを見たら、どう思うのかが気になるけれど……
乙女の朝に、余念はタイムロスなのだ。
化粧水を適量、手に取り、洗顔後の顔に優しく馴染ませるように……こすらないように、肌へしみこませる。
すぅっと、化粧水が馴染むのが分かる。
ん~、お肌は乙女の武器なのだから、大事にしとかんとね。
ファンデーションは、透き通るように肌に溶け込むような、アタシお気に入りのナチュラルカラー♪
そいや、アイツってば……『月美は何もつけなくても、とても美人だが?』とか言ってたけどサ?
その上を行きたいのが、乙女心なんやき? ふふ♡
でも、大好きな、アイツから認められているのは、本当に嬉しい♪
窓の外の雨音とは裏腹に、アタシの肌は晴れ模様♪
さて、着替えようとしたその時――ドアをノックする音が……この気配は♪
「月美様、ご起床されておられますか?」
アイツの声だわ♪ あは♡ アタシが大好きな……
ラーヴィだ♪
今年のバレンタインの直前で、アイツに恋していることを自覚してからは――
バレンタインの時に告白して、その後も、妹の椿咲救出にも、命がけで協力をしてくれた。
……ほんと、命がけでね……
死にかけたアイツを見て、胸が張り裂けそうな絶望をアタシに与えるほどにねぇ……ハハ。
あの時、血に染まった彼の手を、アタシとその場にいた2人と一緒に、泣き叫びながら――
マナも声も全部使って、必死に蘇生をしようとした――
あの時の叫びは、今も耳に残ってる……ゼッテー忘れんきね!
でも――彼は白銀の美しい短い髪にキリっとした赤い瞳。
意思の強い、仲間思いで……無鉄砲だけど、超強い。
彼の事を考えるだけでも、恋しちゃったアタシには、全てがかっこよく映る……
完全に、ホレちゃったフィルターで、いいとこばかり見えちゃうんよね♡
――まあ、恋ってそういうもんやけど♡
……ただし、超朴念仁、天然タラシ以外は……
アイツ、男女見境なく、無自覚に丁寧に対応するからなぁ……
特に、ウチの城のメイド集は、彼に対しては、ファンクラブあるし……
それに、ライバルである妹たちに、幼馴染の存在も、侮れないワ。
「はいは~い♪ 起きてるわよ~、ちょっと身支度中。そこでステイ☆」
アタシはドアの方に向かって声を掛ける。
やっば、ドア越しで声を掛けられただけでも、ドキドキする♡
……好き、大好き……アイツの事。
アタシが起きてる事が分かると、ドア越しから――
「よかった。食事の準備は整っているから。いつでもリビングに……では」
身支度中ともあるから、彼はドアから立ち去ったのかしら。
……ちょっと寂しいなぁ~?
それくらい、アタシは、彼を愛してしまっている。
ハンガーにかけられた、学生服を手にして、アタシは着付けをする。
ピシッと整えられたインナーのシャツの上に、紅いブレザーを羽織る。
スカートは濃紺で、アタシはミニ丈に整えてから、ソックスと、愛用のパンプスの状態を確認する。
身支度完了♪
カバンを手にして、部屋に飾ってあるメモリアルコーナーの……
アタシのママの遺影に手を合わせてから――
「
ママに挨拶をしてから、アタシは部屋を飛び出した。
今日は、一体なにがあるのかしら♪ 新しい1日にレッツゴー☆
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