🦌第5首 奥山に🦌

 奥山に 紅葉ふみわけ 鳴く鹿の

 声きく時ぞ 秋は悲しき(猿丸大夫)


 山の奥は、ひっそりと息をひそめていた。

 紅葉の絨毯を踏むたびに、かさりとかすかな音が広がる。

 その静けさを破るように、遠くで鹿の鳴き声がこだました。


 その声は、孤独を切り裂くようであり、また深めるようでもある。

 胸の奥に届くのは、ただの獣の声ではなかった。

 誰かを呼ぶ声。

 届かぬ相手を求める声。


 立ち止まると、冷たい風が頬を撫でた。

 ふと浮かぶのは、あの人の面影。

 語り合った日々も、ふいに交わした笑顔も、もう手を伸ばしても届かない。

 紅葉の赤が、鮮やかにそれを思い出させる。


 秋は、美しい。

 けれど、その美しさの中に潜む影は、人を孤独へと誘う。


 今夜もまた、秋の悲しみを抱いて眠るのだろう。

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