Ito Shoha — Everyday Grace

Rie

— 伊藤小坡・生活に息づく女性美 —

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伊藤小坡は、伊勢・猿田彦神社の宮司の家に生まれ、明治から大正期にかけて活躍した、近代日本画壇で注目を集めた女性画家のひとりです。


幼少期から親しんだ神話や民話、そして家庭の営みに触れる日常が、彼女の作品の根底を支えていました。


小坡は、当時としては珍しく、画家としての創作と家庭生活を両立させました。


その暮らしの断片こそが、彼女の画業に独自の温かさと生活の温もりを与えています。


家庭のなかで見つけた仕草、何気ない動作、柔らかな表情──それらを等身大の女性像として画布に刻むことで、理想化された華やかさとは異なる、生活の中の自然な美を描き出しました。


特に、夫であり同じ画家の伊藤鷺城との合作や、家族の節目を祝う作品には、温もりと気品が共存しています。


大正期の大作「洗濯の女」に見られるように、彼女の筆は、日常のありふれた情景にも豊かな情感を宿らせることができました。


こうした視点は、女性が画家として活躍することが難しかった時代にあって、非常に貴重で独創的なものです。


小坡の作品を前にすると、日常の細やかな動きに潜む品格や、生活の中に漂う微かな喜びに気づかされます。


着物の柄のささやかな揺れや、髪に触れる指先の感触、目線の先にある一瞬の感情──それらを静かに見つめることが、日常を丁寧に生きることの意味を教えてくれるのです。


こうして生まれる小坡の女性像は、時間を越えて私たちに語りかけます。


生活の中にあるささやかな美、そして人が大切にしてきた心の動き。


その微細な趣に心を寄せ、思索することで、慌ただしい日々の中にあっても、穏やかで豊かな心の目を取り戻すことができるのです。




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伊藤小坡『化粧』より

インスピレーション

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❀化粧 —身繕い— ❀



───── ✿ ─────


朝ぼらけ かすかに咲かす


うつろ紅の はにかみを


うつし鏡に ゆらりと浮かぶ


わたし ひとりの 花の顔


爪の先にも 香をとどめて


思いのままに 色をさす


うれしきは 恋しきしるし


夜のしじまに 染まりゆく


ためらいの月 髪とかしつつ


誰を想うか 鏡のなかで


───── ✿ ─────


── ArtPoetry Rie




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