誰が魔王を倒したのか

紡識かなめ

プロローグ

王城の謁見の間。

勇者レオンは仲間たちと共に進み出て、魔王の剣を両手で掲げた。

漆黒の刃に刻まれた禍々しい紋様は、紛れもなく魔王の遺物だった。


「陛下。我ら、魔王を討ち果たしました」


国王は玉座の上で立ち上がり、深い皺に笑みを浮かべた。

長く続いた戦乱の終焉を告げる言葉に、廷臣たちは涙を流し、兵士たちは槍で床を叩き、喝采の渦が広がっていった。


その夜、王都は光に包まれた。

広場には火が焚かれ、歌と笛の音が夜空を満たした。

英雄たちの名を叫ぶ声が絶えず響き、酒場はどこも溢れるほどの人で満ちていた。

六人の戦士たちも王城の大広間で杯を掲げ、歓声と祝福に酔いしれた。


――だが翌日。


喧騒の余韻が残る朝の酒場で、六人は大きな丸卓を囲んでいた。

床には昨夜の酒の匂いが染みつき、空のグラスが無造作に積まれている。

外の街路では子どもたちが「勇者ごっこ」に興じていたが、この場に漂う空気はどこか重苦しかった。


勇者レオンが沈黙を破った。

「なあ……結局さ。魔王討伐に一番貢献したのは誰なんだ?」


戦士ガロスがにやりと笑い、大盾を叩いた。

「言うまでもない。俺だ。俺がいなければ誰一人、生きて帰れなかった」


「はっ、それは違うわ」

アーチャーのリュシアがすかさず言葉を挟む。

「私の矢がなければ、魔王は隙を見せなかった。功績は私が一番大きい」


「いやいや」

魔法使いセリオスが鼻で笑う。

「魔王を追い詰めたのは私の大魔法だ。お前らの攻撃など小石に等しい」


「俺の獣が牙を食い込ませたのを忘れるなよ」

魔物使いカインが杯を掲げて言い返す。


「落ち着いてください」

僧侶エリシアが両手を胸に当てる。

「皆さんがどれほど傷を負っても、私が癒したから最後まで戦えたのです。功績を比べるなら――」


言葉が重なり、卓上の空気は急速に熱を帯びていく。

英雄を讃えた祝宴の翌日に、彼らは互いの功を奪い合い、視線は火花のように交錯した。

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