ギーお嬢様と2度ベルを鳴らす郵便配達~あるいはTSレプリカントの恋物語~

☃️三杉 令

ある未来の戦争中、丘のある家で一人……/三杉令

 私(ギー)にはモカという愛する女性がいました。

 結婚の約束をし、銀のネックレスをあげました。

 2ヶ月前、モカが敵兵士に撃たれて死んだことを知りました。

 私は悲しみに打ちひしがれて、彼女以外の女性を一生愛さないと誓いました。

 

 志願して自ら女性型のレプリカント(人造人間)になったんです。


 しかし……

 レプリカントは敵国の暗殺者(ブレードランナー)に始末されます。

 P.K.ディックが小説に書いてから、それは決まり事なのです。


 そこで私は人目を避けて郊外の家に一人で住み始めました。

 暗殺者が私を殺しに来たらどうしよう……

 そう。戦争はまだ長く続いておりました。


 ――1年が経ちました。


 村の男性達はみな戦争に駆り出され、私も含めどの家にも女性しか残っていませんでした。私はもちろんモカの事は忘れてはいませんが、なぜか男性が恋しくなりました。レプリカントとはいえ今の私は女性です。この体がそうさせるのでしょうか?


 やがて、変な噂を聞きました。


 郵便配達員が二度ベルを鳴らすと、それは女性の寂しさを紛らすサービスをしてくれる合図だというものです。一人暮らしの若い女性と配達員の男性……


 まさか……20世紀じゃあるまいし……都市伝説とは思いましたが、少し期待もあったりしました。



 ✧ ✧ ✧


 

 ある日の昼下がり、二度呼び鈴が鳴りました!


 ドキッとしてこっそり外を見ると、まさに郵便配達でした。

 格好の良い男性が手紙を持って立っています。

 でも、もしかしたら暗殺者かもしれない……


「どうしよう……」  


 悩んだあげく私は銃を後ろ手に持って玄関に出ました。

 イケメン配達員は少しうるんだ目で私を見ています。

 私は息を呑んで、彼の様子を伺います。

 彼は言いました。


「み、Missギーですね?」

「は、はい」

「お手紙が届いています……どうぞ」


 私が手紙を受け取った時、彼の片手にキラリと光る銀色のものが見えました。


「ツッ!」


 私(ギー)は素早く後ろに跳ね飛び、一回転した後……バン!

 配達員に模した暗殺者を銃で撃ち抜きました。


「キャッ」


 男がもんどり打って倒れると私は驚きました。

 彼の右手にあったのは銃ではなく銀のネックレスだったのです。


「え? どう言う事?」


 なぜモカにあげたネックレスを男が持っているのか分かりませんでした。

 手紙を読むと、こう書いていました。


「ギー、私は瀕死の重傷でしたが生きのびました。あなたのことを知ってレプリカントの男になったのです。愛するモカより」


 倒れた男(モカ)が目を覚ましました。死んではいませんでした。なぜなら彼女はレプリカントだからでした。でも口調は女性のモカのままでした。


「ギー、2度ベルを鳴らしたでしょ。私は暗殺者じゃないわ」


 モカが生きていて本当にうれしかった!

 天にも昇る幸せでした。

 体は女性だけど、私はすっかり昔のギーを取り戻しました。


「モカ、生きていたんだね! 良かった!」

「「愛してる!」」


 私はモカを立たせると抱き合いました。

 男女が逆になりましたが、二人の幸せは永遠に続きました。



 ―― 了 ――

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