チーム 母性
元気モリ子
チーム 母性
最近、赤ちゃんの動画ばかり狂ったように観ている。
ラッコの赤ちゃん
コアラの赤ちゃん
アザラシの赤ちゃん
猫の赤ちゃん
ゴールデンレトリバーの赤ちゃん
赤ちゃん
赤ちゃん
赤ちゃん
守備範囲は赤ちゃん全般であり、「赤ちゃん」と付くものならなんでも良い。
まかせろ、全て愛す。
毎日毎日ニタニタとした笑みを浮かべながら、スマートフォン片手に赤ちゃんを眺める。
赤ちゃんの動画ばかり観ているものだから、オススメには別個体の赤ちゃんが上がり、赤ちゃんを観終えた後、私の親指はオートマティックに次の赤ちゃんをタップする。
6.12インチの画面から、私の求めるこの世の全ての赤ちゃんが泉の如く溢れ出てくる。
こんなにもお手軽に幸福を得ては、今にもバチが当たりそうである。
産んだ覚えがないのに愛おしい。
かわいくてしかたがない。
特にゴールデンレトリバーの赤ちゃんは別格で、赤ちゃんのくせに爺めいた表情が堪らない。
抱きしめたい。
今すぐにでも抱きしめたい。
しかし、ふと我に帰ることがある。
この母性に何の役割があるのかと。
なぜなら、これほどまでに母性が溢れていても、私は泣いても喚いてもゴールデンレトリバーの赤ちゃんを産めない。
つまりゴールデンレトリバーのお母さんにはなれないのだ。
元来ゴールデンレトリバーの赤ちゃんに対する母性は、ゴールデンレトリバーのお母さんだけが持っていれば事足りるはずである。
それなのに、縁もゆかりもないホモサピエンスの私が、会ったこともないゴールデンレトリバーに母性を抱く。
こいつのために生きたいと思う。
文字にすると恐怖すら感じるこの感情に、意味などないとするならば尚のこと怖い。
しかし、こんなにもお門違いなパワーが今ここに間違いなく存在し、今にも爆発しそうになっている。
何をしでかすか分からない、母性にはそれほどまでの得体の知れないパワーがある。
生き物として自分の種族のみが生き延びればそれで良い。
本当にそうであるなら、こんな母性は本来必要ない。
自分の子どもだけを慈しみ、他のものなど気にかけず、周りの子どもを蹴落としてでも、我が子を守る。
しかし、この世の母性を秘めた個体はそんなことはしない。
私たちは赤ちゃんを愛で、大切に触れ、別種であっても守り抜く。
性別など超越したこの「母性」という感情は、生きとし生けるもの、この地球上に存在する全ての生を受け入れ、守り抜くハートを携えている。
いわば「チーム 母性」である。
集え、母性を秘めたる者たちよ!
私たちは今日も、与えられた区画でそれぞれに母性を発揮するのだ。
スマートフォン越しにゴールデンレトリバーの赤ちゃんを撫で、赤ちゃんラッコの手を握る。
そして、道ゆく赤ちゃんに微笑みかけるのだ。
この地球は素晴らしい!
赤ちゃんは素晴らしい!
立ち上がれ!
かつて赤ちゃんだった者たちよ!
スーパーで親子丼の材料をカゴに入れ、帰路につく。
まだまだ蒸し暑さの残る外気に、思い出したかのように秋の風が吹き込む時、私たちもまた忘れていた赤ちゃんの頃を思い出す。
ずっと赤ちゃんではいられない。
そんな地続きからなる今の自分を、生かすために今日も卵を食べる。
夕日の色が、気持ちだけ薄くなってきた。
地球はまるく、ついこないだのように思えた秋が、気づけばすぐ後ろで信号にひっかかっている。
あともう少し。
チーム 母性 元気モリ子 @moriko0201
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