25、不肖者

 今となっては昔のことだが、ある藩に綱紀つなのりという男がいた。

 男は藩主の家臣として日々働いていたが、その成果は他の者に比べてやや劣っていたという。

 ある朝、綱紀が自分の屋敷にいた時のこと。

 突然、ある家来が慌てて綱紀の元へやって来た。

 家来が言うには、

「殿、大変です! 上様が殿をお討ちになろうとしています!」

 という。

 家来の報告に綱紀はたいそう驚き、事実なのか問いただした。

 すると、家来はふところから一枚の書状を取り出して綱紀に渡した。

 それを一目見た綱紀は、天を仰いで言った。

「不肖ながらも、懸命にお仕えしたつもりだったのだがなぁ」

 と。

 その日の夜、綱紀は家族や家来を連れて脱藩した。





 翌日、綱紀の脱藩が藩主の耳に伝わることになった。

 藩主はため息を吐いてこう言った。

「あやつめ、"綱紀こうき粛正しゅくせい"を"綱紀つなのり粛清しゅくせい"と勘違いしたか。そもそもご公儀から私闘は禁じられているのだから、粛清するはずはないのに。やはりあやつは不肖の男だったのう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る