最終話 「綾!」

 「お見合い結婚しか無理なんだろうなあ」

 そう思っていた通りの人生をオレは歩んだ。

 ただ驚いた事に……縁あってオレの元に来てくれたお嫁さんは8つも年下で……自宅に遊びに来た部下が酔った勢いで「係長の奥さん!すっごく若いんですね!! もしオレの歳で結婚してたら淫行になり兼ねないですよぉ~」と軽口を叩いた。

 もちろん、オレも奥さんもそんな事で目くじらを立てたりはしない。

 その代わり……

 オレは“薄く作った”ハイボールを奥さんに手渡し、囁いた。

「これはお前の分。あとアイツにあまり飲ませるなよ。まるで昔のオレみたいなヤツだから……」


「あらっ?!あなたも昔は弱かったの? そのまま弱く居て下さったらお酒代も少なくて済んだのに……」と奥さんはクスクス笑う。


 オレは苦笑いを作ってから、部下に見られない様、奥さんのほっぺに素早くキスをする。

 奥さんは「うふふふ。でも……今日は無理かな?……」

 とオレに囁き、“お返しに”オレの耳たぶを啄む。

 甘やかな温かさを耳に感じながら……オレは既に“ろれつが怪しい”部下を見やり、肩を竦める。

「だな。コイツ、帰れそうに無い……」


「あらあらガックリ項垂れちゃって……もうダメみたいですよ。毛布、取って来ますね」


「悪いな!」


 愛しい奥さんの後ろ姿を見送りながら、オレはツーフィンガーのウィスキーグラスに口を付ける。

 ふと、古い記憶が蘇る。



『お前って名前は無いよね!』


 それは、あの花音の声だ……


 もし、花音と……まったく別の出会い方をしていたら……

 彼女とは一夜限りの逢瀬では無く……オレは今、彼女の背中を愛おしく見送っているのかもしれない……


 ただ、それは『もしも』の話。


 今のオレは……

 この愛しい奥さんの事を

 限りない愛を込めて

「綾!」と呼んであげよう。




 

                       <了>




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if ~もしもあの時~ 縞間かおる @kurosirokaede

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