第3話 目が覚めて……

 口の中は酸っぱく胃の中のニオイが鼻を突く。

 重痛い頭を抱えてオレは寝返りをうつ

 ……ベッド?!

 ここは……

 どこだ??

 

 のどの渇きを覚えて首に手をやると、ポロシャツの襟に触れる。

 ああ、今日着た服のままだ。

 ボタンは全部外されてはいたけれど……


 上に掛けられていた薄物の裾を掴み、唸りながら身を起こすとふんわりウェーブの女の髪が頬に触れた。

「??!!」と頭の中は声を発するのだが……

 ギ・ギ・ギ・ギと言った感じで首を動かすとキツメのメイクの“お姉さん”がそこに居た。


「えっ??!!」


 今度は声が出た。


 誰だ?!


 このお姉さんは??


「やっと起きた! 具合どう?」


 そのにオレは飛び起きて、マジマジと“お姉さん”の顔を見、辺りを見回した。

 どう見てもここはホテルの一室で……ベッドサイドにはAVで見た事のある『大人のおもち●』が鎮座している。

 ラブホだ!!

 マジか??!!

 動揺したオレの目に……向こうのクローゼットに掛かっている『見覚えのある』ワンピースが飛び込んで来た!


 ヤベエ!!


 花音だ!!


 オレ!

 の??!!

 慌てて“薄物”の中を探るとズボンのベルトもしっかり締まっている。


「ちょっと!いきなりの?!デリカシーないなあ~」

 悪戯っぽい声で耳元に囁かれた。


 間違いない!

 花音だ!


「違う!! そうじゃない! オレは!!……どうしたんだ……?」


 この間抜けなオレの言い様に花音はケラケラと笑った。


「もう!ホント!大変だったんだからね! 雄司、いきなりグテグテになっちゃってさあ~ ワタシ、大急ぎで“顔を作って”恋人を介抱するオトナの女性を演じたのよ!」


「え?! それは……何で?」


「当ったり前でしょ?! JKがタクシー拾ってオトコをラブホに連れ込むわけにはいかないじゃん! “この顔”でだってタクシーの運ちゃんにジロジロ見られっぱなしだったんだから!」


「それは……本当に悪かった! 迷惑掛けた!申し訳ない!!」


 ベッドに半身を起こしながら頭を下げるオレ、相当みっともない……


「まあいいわ!こっちはやる事、やってくれればいいんだから」


「えっ?!」


「何、キョトンとしてるの?」


「……やる事って??!!」


「ここラブホだよ!やる事なんて決まってんじゃん!あ、私、“おもち●”もだから」


「なに言ってんだ!お前!!」


「なに声を荒げてんの?!ウケんだけど。それとも何? デートするのにクレジットカードだけで現金ゲンナマのご用意は無かったの? それもあり得ないんだけど」


「ちゃんと持ってる!! けどなあ!! それは使為のもので……」


「ウッソーッ! 雄司、ワタシとタダでるつもりだったの?!信じられねえ!!」


「ヤるつもりなんて元々無いよ!」


「エエ~!!こんなに可愛いワタシとヤれるんだよ! 拒否るなんてあり得ないんだけど!」


「どんなに可愛くても魅力的でもJKとヤるなんて犯罪だろ??!!」

 こう言い返すと花音はベッドに片膝を乗せてオレの首にキスのスタンプを捺した。


「だからこうやって……オトナの女を演じてあげてんじゃん! もし万一、なんかあったとしても……『オレは騙されました!女子高生だとは思わなかったんです』って言えるようにさ……」


 花音の声がくぐもっている……えっ?!

 ひょっとして…… 

 泣いてる??


「お前、どうして……」


「『お前』じゃない!!か・の・ん!! 私だって!! 想定外だったんだから!! どうして雄司の事を好きになってしまったのか……分かんないけど……そう!きっと!! 雄司がオトナのくせに可愛いからだ!」


「かわいい??!!」


「ソウダヨ! 雄司ってビックリするくらい擦れて無くて……私の周りの大人どもとまるっきり違うから」


「花音!そんな大人と付き合うお前の方が間違ってる!!」


「また『お前』って言う!! ま、いいけどさ、そのくらい……雄司は『そんな大人と付き合うな!』って言うけど、それ無理だよ!」


「どうして??!!」


「だって、その“大人”の中に親も入ってるんだもん」


「ええっ??!!」


「ウチの親!店潰して無職の借金まみれ!私ので生活費と返済を賄ってるの!」


「それって!!……」


「私は『バイト代』って親に渡してるけど、JKが稼げる様な額じゃないから……何をやってお金を作ったのなんかバレバレだよ」


「なのに……両親は何も言わないのか?」


「そっ!お金ってホント!怖いよね。雄司は気を付けなよ」


『あり得ねえ!!』

 オレは心の中でまた叫んでいた。

 これは花音がオレを騙す為の演技だ!

 でも演技じゃなく本当にそうだとなら……


「私が嘘吹いてると思ってもいいよ!いや、むしろそう思って欲しい! ただ金をせびってるオンナだってね! そしたら私もラクだから……いっぱいサービスするよ! 4で!……ホントは私が払ったタクシー代とかホテル代も請求しなきゃだけど、ワイシャツの弁償と言う事でチャラにしたげる!」


 花音は……それきり何も言わず“薄掛け”の中へ潜り込んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る