男でも、女子力が高ければメイドになれる説。

夜兎 唯

第1話 女装男子、メイドになる準備をする。

異世界も、転生も、幻の何かだと思っていた。

暇を潰すために机に積まれた本の中に、異世界転生がテーマの本があった。

......面白かった。

それと同時に、羨ましいとも、思った。


生まれた時から見ていた、真っ白な部屋。

時々私の身体を襲う、全身を震わせるほどの痛み。

何が入っているかもわからない薬が私の肌に触れた瞬間、本当に気持ち悪くなる。

それを10年間繰り返して、私は力尽きた。


病院でも、楽しいことは沢山あった。

他人にうつる感染症ではなかったから、体の調子が良い時は料理とか、裁縫とか、メイクとか、色々なことをしていた。

看護師さんに無理を言って、洗濯とか掃除をさせてもらったこともあった。

私自身、この病院でできることはあると考えてたから。


正直、6歳ぐらいの時にはもう、わかっていた。

私の病気は、治らない。

病名は死ぬまでわからなかったけど、多分癌とかなのだろう。


だから、まだ生きる希望がある人のために私は生きた。

ありがとう、っていう言葉が嬉しかった。


でも、今考えると、やっぱりあっという間。


そんなことを考えながら、「私」は死んだ。



今は、「僕」として、「リオン・クリステン」として生きている。

神様が私を異世界転生させてくれた。

もともと備わっている女子力+女子力、普通に生きれる分のお金、

丈夫な体、というおまけ付きで。


......でも。

男、になるとは聞いていない。

なんか10歳から18歳になったのは良いけど。

転生先は、メイド。

......なのに、男。

完全なる女装男子状態だった。


私をそのまま送る、って言ってたけど。

丈夫な体、を望んだから。

きっと「女」の自分は病気に侵されすぎて死んでしまったのだろう、本当に。


だから、「私」じゃなくて、「僕」。

第2の人生だし、男だから「私」はダメ、というわけではないけど。

......自分の中の「僕」として生きたい。

自分の中にある、「私」と「僕」。

私は、第1の人生。

僕は第2の人生。


......ということで。

「男でも、女子力が高ければメイドになれる説」、だな。

今バレたら即クビだけど......それは避けなければ。


今日は新人メイドは準備の日だから、僕はメイク道具とその他日用品を買いに行く。

「女の子」にならないといけないから。

165cm、女声だけど少し低め、身体は一応華奢。

顔は......ちょーっと疑われそうなレベル。

今はまだ働いてもいない状況だから、お金はかかるけど防水性のあるメイクの方が良いかもしれない。

身長がもうちょっと低くても良かったが......まあ、許容範囲だ。

170cmを超えていたら、危なかった......。

ここは、安心した。


......それにしても。

異世界の都市って、広いな。

本で読む時よりもワクワクしているのが、よく分かる。

商店街があって、大きなデパートもある。

人間界では見たこともない物もあったり。

魔女や騎士もいたり。

本当に、ここでの生活が楽しみだ。

......でも。

どこが、どこ......?

神様が僕に持たせてくれたスマホでも、わからない。


「......ねえ、君。」

「は、はい......‼︎」


後ろからいきなり肩をポン、と叩かれて少し飛び上がってしまった。

突然だったから......ビックリした......。


「ロミエール家の新人メイドさん、で合ってる?」

「あ、はい‼︎」

「良かった〜。 私と同期だね。」

「よ、よろしくお願いします。」


おお......同期。

金色のロングヘアで、目が青い。

顔は国宝級で、もう......凄く美人。

ドールみたい......というか、ほぼドールで見惚れてしまう。

しかもメイド服だから、さらにドールと認識することを加速させている。


僕は黒髪で、ショート。

ウルフなかんじだ。

目は......赤色。

スマホのカメラ機能で見てみたら、そうだった。

顔面偏差値は......普通だと信じたい。

彼女の前では、敵わないが。

......というか、敵う人がいたら見てみたい。


「敬語じゃなくて良いよ。」

「......ありがとう。」


僕は転生した身だから、結構緊張している。

私は同い年の子と話す、ということはほぼしなかったから......。


「......で、なんか道迷ってるの?」

「......田舎の方から来たから、あまりこの街のことがわからなくて。」

「なるほど。 じゃ、よければ私と回ろうよ!」

「......僕で、良いの……?」


いきなり心配になってきた。

こんな可愛い子が、僕なんかと一緒にいて良いのか、って。

こんな幸せなことがあって良いのか、って。


しかも、顔も良いし、性格も良い......‼︎

こんな可愛い子が僕に話しかけてくれて、気にかけてくれて......。

夢じゃないか、とも思う。

......が、頬をつねると痛い。 現実だ。


「全然良いよ! 君とは気が合いそうだし!」


そう言われながら、彼女の手が僕の右手に触れる。

そのまま、前に引っ張られた。

僕はそのまま彼女と軽く走り出した。


「私、アリア・テラス! よろしくね♪」

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