010 ロマンティックを貫いた先は?




 光一が仕事先のレストランで暴行された。

 高橋アイの兄は現在はハングレ集団に属している。そいつらの仕業だった。


 病院の廊下を駆けながら、心臓が破れそうなほどに鼓動している。

 春菜はすでに病室にいるはず。私は警察で事情を話し終えて、ようやくここにたどり着いた。


 扉を開けると、ベッドに横たわる光一が目に入る。包帯だらけの顔、手足にもあざがある。胸の奥がぎゅっと痛む。


「咲子……」


 光一の手を握る春菜が私を呼ぶ。


「警察に全部話してきたよ……光一、大丈夫?」


 光一はかすれた声で微笑む。


「春菜と咲子が襲われるより、ずっとましだ」その言葉の重みが胸に突き刺さる。


 中学から光一は、何度も高橋アイの兄が率いる不良グループに「春菜と咲子を襲う」と脅されていた。直接脅されたのは光一だけで、私は「光一と別れろ」と怪文書が送られるだけだ。


 本当の特別は春菜だったが、アイ目の前で光一が私を助けたから誤解しているのだ。

 警察に相談しても、事件が起こっていないということで「周辺の警備をする」と言われるだけだった。


 ――ある日の昼休み、屋上で光一が不良たちに囲まれていたのを覚えている。


 自分だけならどうにかできても、私たちに危害が及ぶのを恐れていたのだろう。光一は遂に「高橋アイ」と付き合うことを承諾した。

 その後、光一は自暴自棄になったのかアイには冷たく接し、年上の女性と遊ぶようになっていた。


 光一の浮気に耐え切れず、アイは光一と別れたが、その後も執拗に嫌がらせを続けた。女の影が見えると陰湿な手紙を送るのだ。ほとんどストーカーのようだった。見かねた兄がアイに諦めるよう告げた。それが今回の事件の引き金になった。


 諦める代わりに痛みを与える――アイなら考えそうなことだ。


 私も光一も馬鹿ではない。脅された内容は録音し、手紙は回収し保管していた。それでも、こんな結果は望んでいなかった。何度聞いても、光一は「上手くやってる、大丈夫だ」と言っていた。きっと、最初から全部自分で背負う覚悟をしていたのだろう。


 春菜が私に小さく微笑む。


「咲子、来てくれてありがとう」

「……うん」


 私は声を震わせながら答え、春菜を抱きしめる。


「どうして? こんな事になったの?」

「高橋アイと切れるためだよ。アイツ、光一と付き合いたくて、私と春菜を不良グループに襲わせるってずっと光一を脅してたんだ」

「そんな……」


 光一は私たちを安心させるように少しだけ笑った。


「心配するな、春菜と咲子が無事で何よりだ」

「かっこつけすぎだよ、馬鹿」


 春菜は泣きながら微笑む。


 ――無力な私たちは本当に馬鹿みたいだ。だけど胸に残るのは微かな痛みと、貫いた「ロマンティック」。

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