押しかけ看病男の娘

@TETSUZIN884

第1話

♪〜

玄関のチャイムが鳴る、特に心当たりもないし身体がだるく動く気も起きないので居留守を使うことにする


♪〜

またチャイムが鳴る、今は何もしたくないしするべきじゃない。人に会うなんてもってのほかだ


♪〜♪〜♪〜

立て続けにチャイムが鳴る、勘弁してくれ。

これでしょうもない要件だったらどうしてくれようか

「お、やっと出てきたね。元気にしてるかい?

君が風邪で休むなんてめずらしいからさ、大変だろうと思って看病しにきてあげたよ」

扉を開けると能天気そうな声をしたよく知った顔が見えた

「ほら、色々と買ってきたんだ、今日は僕が君の面倒みてあげよう」

その気持ちはありがたいが移してしまっては申し訳ない、感謝だけして引き取ってもらおう。…それにあまり弱っているところを見せるのも嫌だし

「まあまあ、そんなこと言わずにね。僕と君との中だろう?今更恥ずかしがることなんてないさ。

そういうことで、お邪魔するよ」

人の話を突っぱねてずけずけと玄関を上がっていった。

「おぉ〜、見事に散らかっているね。服も脱ぎっぱなし、食べ物の容器も…ってカップ麺ばかりじゃないか。感心しないなぁ、体調がすぐれない時こそしっかり栄養を摂るべきだ」

そんなことを言われたってこちらは病人一人なんだ。何もやる気の起きない中まだ食べているだけマシというものだろう

「じゃあ尚更僕がいた方がいいな君は。安心したまえ、実家暮らしではあるが、家事全般こなせるくらいのノウハウはある」

なぜかこちらにしたり顔をし、自信満々にふふんと鼻を鳴らしている。こうなってはもう従うしかなさそうだ。マスクだけでもつけておこう

「観念したかい?じゃあ君はベッドで横になっていてくれ。全部、僕がやっておくから。そう、全部だ。君は僕に全てを預けて……いや、まぁ何かあったら遠慮なく言ってくれ。できることならなんでもするよ」

そう言うと彼は部屋の掃除、洗濯、夕飯の用意までしてくれた。

「出来たよ、しっかり食べて滋養をつけてくれ。色々と買ってきていて良かったよ。まさか冷蔵庫の中にほとんど何も入ってないなんて、君、普段から自炊とかしてるのかい?」

一人暮らしを始めて最初の方は不細工ながら自炊をしようとしていたがだんだんと面倒になり結局ほとんどしなくなった。自炊しなくても不自由なく生活はできている

「そりゃあ昨今食べ物なんて自分で作らなくても生きてはいけるけどね、スキルとして身につけておいた方が何かと便利だよ。君は大雑把すぎるんだ、一人で生きていけるのか心配になるよ」

それは自分でも自覚している。そしていつも彼に助けられている。学校でも、私生活でも。自分は世話をされるばかりで何も彼の得になるようなことはしていないのではないだろうか。………今更ながら申し訳なくなってきた。

「すまない、別に君を責めているわけじゃないし、見返りを求めてるわけでもない。…うーん、なんだろうね?老婆心というかなんというか。君を見ていると世話をせずにはいられない、そんな衝動に駆られるのさ。だからこれは僕が好きでやっていることで、君が後ろめたさを感じることはないよ。ほら、冷えてしまう前に食べてしまってくれ」

作ってもらったものを食べながら何か自分が彼にできることはないかと考える。ああは言われたがしてもらいっぱなしではばつが悪い。

「何か僕のためにできることはないかって?いいや、本当に見返りなんていらないよ。それより、僕の作ったおじやは美味しいかい?…それは良かった、介護冥利に尽きるね」

おじやを食べ終わって、彼が食器をキッチンへと片付ける。久しぶりに人の手で作られたものを食べ、なんだか心身が温まっている気がする。眠くなる前にシャワーを浴びておこう

「お風呂に入って大丈夫なのかい?中でぶっ倒れたりしないでくれよ。

…そうだ、僕が一緒に入って体の隅々を洗ってあげようか?」

彼はイタズラっぽい笑みをこちらに向けながらそう言った。熱があったってシャワーくらい一人で浴びられる。

「そうかい?それなら充分気をつけていってらっしゃい。軽くベッドメイクをしておくから」

何から何までやってもらっている

シャワーを浴び、寝巻きを着てマスクを着け、ベッドへ戻る

「おかえり、さっぱりしたかな?じゃあ今日のところはもう寝るかい?」

特にやることもないのでその言葉に甘えてもう寝ることにしよう。と思ったが、彼はいつまでいるつもりなのだろうか?

「すまない、僕もお風呂場を使っていいかな?

んん?いつまでいるのかって、今日は泊まっていくつもりだよ、体調を崩している時の孤独感は凄まじいものだからね。特に夜はね。だから一緒にいてあげようという粋な計らいさ。じゃ、僕もシャワーを浴びてくるよ。電気は消しておくかい?そうか、いつでも好きなタイミングで消してもらって構わないからね」

そう言って洗面所へ入っていった。人を泊める用意などしていない、寝床すらない。本気で泊まるつもりなんだろうか

「ふ〜、気持ちよかった。ん、まだ起きてたのかい?寝床はどこにするのかって?あぁ、そうだね…歯ブラシやらのお泊まりセットは持ってきたが流石に寝床は持ってきていない、そこでね?」

そう言うと彼は部屋の電気を消し、自分の寝ているベッドに入り込んできた

「僕も一緒のベッドで寝るっていうのはどうかな?嫌かい?」

嫌という訳じゃないが、ベッドはそこまで広くないし風邪が移ってしまう。そこまでして世話を焼く必要はないだろう、自分の家に帰った方が良いのではないだろうか

「さっきも言ったろう?体調の悪い時の孤独感は堪えるって。しかも夜となれば尚更だ、君の風邪が移っても別に構わないよ」

こっちが構わないことはない。世話を焼いてもらった上に病気を移すなんてとんでもない、やはりここは…

「いいんだよ、気にしなくて。ほんっとうに君は鈍感なんだなぁ…

じゃあこれは今日の分の見返りだよ。見返りがいらないなんて言った手前図々しいが、君も何か返したいと言っていたし」

彼はそう言いながら更に距離を詰め、腕をこちらに回してきた

「分からないかい?何故こんなに世話を焼くのか、というか、何故僕は君にこんなに関わろうとするのか。僕なりのアピールのつもりだったんだが、少し回りくどすぎたかな?」

熱で火照った体が更に熱くなっているような気がする

「ほら、僕を見てくれ。熱も出ていないのに顔が真っ赤だ。平静を装っているが、今にも心臓が破裂しそうで、大変だ」

眉をハの字に曲げて、少し困ったような笑みを作っている。

彼の心臓の鼓動が伝わってくる。自分の鼓動もそれに合わせて早くなっていく。

「駄目だ、ブレーキが効かないな。こんな大胆に出る気はなかったんだが……。

君がマスクをしていて良かったよ。それがなければ君の唇を奪いそうになる。

……それとも、もうマスクも外してしまうかい?」

マスクに籠った熱を、彼の甘い囁きで外に逃す。

それでも茹だるような熱さにのぼせてしまいそうになる

「………そういうことで良いんだね?」

彼のその言葉に生唾を飲む、もう後戻りはできない

「もう、どうにでもなれだ…」

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