21 高校④
神ゲーと呼ばれているMOUだが誰でもできる簡単なゲームかと言われたらそんなことはなく、むしろまともにプレイできるようになるまでの難易度としては他のゲームよりも遥かに難しかった。
それでもなぜ神ゲーと呼ばれるのかと言えば、ルールを知らない人でも、誰かのプレイ画面を見れば楽しめるくらいド派手だし、そもそも幼いころからゲームに触れてきた現代人というのはみんなそれなりにゲームが上手かった。
あえて欠点を挙げるとするなら、ゲーム画面酔いをする人にとっては、プレイするのも見るのも厳しいかもしれない。あとは、人気のゲームなので、色んな人がプレイしている都合上、5人ランダムでチームを組んだ時、1人くらいやばいやつが混じることがある。
まあそれらの欠点は些細なことで、今日まで多くのゲーマーがMOUをプレイしてきたわけであり、そして今、新たなMOUプレイヤーが生まれようとしていた。サポートの日野さんと、ADCの横田さんである。
「サポートはママ。ADCは赤ちゃん。この気持ちを忘れずに」
「ばぶー」
試合が始まると二人はボットラインに向かうことになるのだけど、そこでの共通の役割は相手とボールを押し合うことにある。その中でADCはボールを倒す際にしっかりとラストヒットを当てることでCSと呼ばれるお金を獲得する。サポートはADCが安全にお金を稼げるように、守ってあげる。このようなボットラインでの役割は赤ちゃんとママに例えられることがよくあった。
こんなところで連勝記録を途切れさせるわけにはいられなかったのだが、対人戦のヒリツキは感じたかったのでノーマルマッチで練習を行うことにした。僕はボットラインの様子をチラチラと確認しながらデブリを回る。使用しているメテオラはリンドールだ。
「相手より多くボールを殴れば、その分レベルアップが速くなる。ボールを9体倒すと、メテオラのレベルが2になるから新しいスキルを獲得して、敵にスキルを当てる」
「ボールを殴る分、相手を殴った方がよくない?」
「トップとミッドはそうなることがあるけど、ボットラインは違う。ボットラインは二人だから、レベル2先行したときに、レベル1の相手のスキルが2つなのに対して4つのスキルで戦うことができる。この差は結構大きい」
「分かった」
ゲームの序盤はラインでの戦いがメインになってくる。ラインでの戦いはハンドスキル以上に知識が勝敗を左右する。相手のスキルの避け方、自分たちが有利に戦える条件、再出撃のタイミングなど、これらの知識を駆使することで序盤の有利を獲得し、中盤以降の戦いに備える。
ボットラインの戦いに注目しながら、ミッドラインに3レベルでガンクを仕掛けた。ミッドライナーの風船が使用しているのは、ロマンチックウォリアーというメテオラである。相手のエレクトロキューショニストというメテオラ相手だと、序盤はラインの有利をとられてしまうが、ボールをこちら側に押し込んでくる分、相手の前線が上がるので、こちらのガンクは決まりやすい。
スキルを当てて相手の体力を削ったことで、エレクトロキューショニストはエネルギーブーストを使用して撤退する。これでラインの有利不利をイーブンまで戻した形になった。ミッドにガンクをした分、カニの時間に遅れるが、相手のデブリがボット側のカニに見えたので、僕はトップ側のカニに向かう。リンドールのデブリ周回速度なら、2カニコントロールをされることはない。
ロマンチックウォリアーとエレクトロキューショニストのマッチアップは、一度再出撃を挟みジャンクを購入した後では、ロマンチックウォリアーが有利になってくる。もちろんメテオラ同士の細かいマッチアップの有利を知っているのは一部のトッププレイヤーにしかいない。再出撃後もボールを押し続けたエレクトロキューショニストは、ロマンチックウォリアーに倒される。
「それプッシュ手伝うから、終わったら相手のデブリにセンサー置きに行こう。スターに押し付けてからで」
「ドラゴン側?」
「うん」
ゲームの中盤ではドラゴンを中心としてゲームのコントロールの奪い合いが始まる。基本的にミッドの主導権がある方が視界の有利を獲得することができるが、ボットの主導権がないとファイトで人数差の不利を受けることになる。
風船は初心者コンビが大きく関わるドラゴン側をコントロールする動きに疑問を抱いたようだ。風船の疑問は当然だけど、この場面においては問題はない。ボットラインに注目しているうちに数分間のライン戦を見ていたけど、相手もそれなりに初心者に近い実力のプレイヤーだった。
というわけで試合を通してドラゴンをコントロールした結果、試合の終盤には14キルと3ドラゴンを獲得していた。4ドラゴンが出現するタイミング、もしくはデウスエクスマキナが出現するタイミングが試合の終盤の時期だった。
「全員でミッドをプッシュしてから渡辺さんを先頭にデブリに入る。役割としてはタンク。その後ろに日野さんが続いて、Rスキルを構えてエンゲージを見る。横田さんはその隣。日野さんが突っ込んだところにスキルを全部使って、通常攻撃で殴る。風船は横田さんとは距離を取ってキルラインを見る。僕は横田さんに突っ込んで来た敵を弾く」
ミッドをプッシュしている間に全員に指示を出す。4ドラを獲得することで強力なバフを手にすることができるので、敵も味方も狙わないという手はない。負けている敵チームがトップラインのウェーブを捨てて、ドラゴン前にポジショニングするが、そこまで上手な連携が取れているわけではなかった。
この集団戦で大きく勝つことができたら、4ドラ獲得をスキップして一気にゲームエンドまで見ることができる。コントロールセンサーを回して視界を確保しながら、トップでタンク系のメテオラをピックしていた渡辺さんを先頭にデブリの中に入ると、ドラゴンを削っている途中の敵チームを発見する。
「突っ込んで!」
「うおおおおおお!」
日野さんは雄叫びを上げて目の前のメテオラに突っ込んだ。タンク系のメテオラに入ったけど、スタンが入って打ち上がったおかげで、それを目掛けて横田さんが自由にダメージを出すことができていた。
ドラゴンの体力が半分まで削れた状態で、接敵された相手チームは小規模な混乱に陥り、4ドラゴンの獲得を目指すプレイヤーと、カウンターエンゲージを見るプレイヤーで別れてしまっていた。その隙を逃さない。
「これ!」
声を上げて敵のADCに突っ込むと、すでに風船が合わせていた。イージーゴアとロマンチックウォリアーの火力が合わされば、耐久力の低いADCのメテオラは一瞬で落ちてしまう。そうすると、渡辺さんのメテオラを倒すためのダメージがなくなる。
あとは手前から順番に倒していくだけだった。散り散りになって逃げていく敵を、デブリの奥深くまで追いかけて倒す。この時間になるとエスケープタイマーが伸びていて、次の再出撃まで40秒近い間隔が開く。
そうなるとゲームエンドがハッキリと見える。
「……つよ」
圧倒的にスムーズなゲームに驚いているのは渡辺さんだけだった。初心者の二人は勝利を確信して喜んでいるだけだったし、風船はこのような勝ちを何度も味わっている。今更驚くようなことではなかったのだ。
「……透水の無敗はいつまで続くんだ?」
「風船が敵になったときじゃないかな」
味方のボールを押し付けてネオユニバース・コアを破壊した。まだ無敗は続いていく。敵が強くても弱くても、ゲームにおいて最速が僕である限り、負けることはないのだろう。
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