気まぐれエクササイズ
谷間川珍敏
気まぐれエクササイズ
目の前に尻があった。
本格的な柔軟体操をしている女性の尻だった。
身体の線がくっきりとわかる、太ももの真ん中くらいまでの長さのスパッツに、タンクトップ。それに短いTシャツ。
スパッツの下に履いている下着の線はしっかりと見えている。
そんな女性に目が向かない男など存在しない。
そうだ、この女性は狙ってやっているのだ。
普通なら、マシンが並ぶ方に尻を向けて柔軟体操はしないだろう。
マシンで奮闘する男達の気を引くために、この女性は尻を向けている。そう捉えられてもおかしくない。
私はチェストプレスマシンから離れ、飲み物を取り飲みながらマシンに座る男達を見た。
側からみると、本当に男達は柔軟体操をする女性をチラチラと見ていた。
先程まで私が座っていたチェストプレスマシンに、新しく男が座る。
その席は特等席だ。
何せ、目の前に尻がある。
私は女性がAirPodsの操作のために髪をかきあげる仕草を見逃さなかった。
これも狙っているのだろう。
沸々と、怒りの感情が生まれてくる。
何をしにジムに来ているんだ。けしからん。
けしからんぞ、痴女め!
そう心の中で捲し立てながら、私の視線は女性から離れない。
なんと美しいのだろう。汗を拭う仕草、細いがしっかりと鍛えていることの分かる身体の張りが、男達の視線を釘付けにしていた。
その日、私は自宅に帰ってからジムのホームページを開いた。
クレームを出そうと思ったからだ。
女性のお客さんが、際どい服で柔軟体操をしていて、全く集中できない。店員は気づいているはずなのに、少しも干渉しない。なら、店員は店員でいる意味はないのではないか、と。
ホームページの問い合わせ欄にそのようなことを書き並べ、読み返した所で、この行為の意味を自身に問うた。
私の視線は、キーボード上に添えた指と画面を何往復かした。
しばらく考え込んだ自問に答えは見つからず、ホームページをそのままそっと閉じた。
気まぐれエクササイズ 谷間川珍敏 @kamakirimakiri
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