第13話 血で血を洗う修行編
──数時間前──
「──よーっし!ここらでいいかな!よろしくね、アカネ君!!」
「はっ、はい!よろしくお願いします!」
「──早速、始めちゃおっか」
事務所の地下構造をしばらく歩いた場所でジェイソンさんと向かい合う。
彼女はずっと背負っていた大きなリュックを下ろすと、その場で体を伸ばし軽い準備運動を始めた。
自分も真似するように体を伸ばしながらも、慎重に聞いてみる。
「⋯⋯あの、ジェイソンさん⋯⋯訓練って一体何を──」
「──ジェイソン」
「⋯⋯え?」
唐突に言葉が遮られる。
「⋯⋯ジェイソンって呼んでよ。コードネームにさん付けって、ちょっぴりダサいし」
「⋯⋯いや、でも──」
「──呼んで」
「──っ」
なんとなく躊躇ってしまうと、少し強い口調で再度告げられる。
「──ジェイソンは、さん付けなんてされないから」
「──わっ、分かりましたっ!ジェイソン⋯⋯っ!」
「⋯⋯⋯⋯うんっ、よろしくね!!」
⋯⋯彼女は表情こそずっと笑顔だったが、明らかに目が笑っていなかった。
⋯⋯⋯⋯地雷だったのかもしれない。
「それで、訓練の内容なんだけどね。私達は能力の強化に焦点を当ててやってみようかなって」
「能力、ですか?」
「うん!アカネ君の能力って『血液操作』だったよね?」
「は、はい。そうです⋯⋯」
「自分の血を固めたり動かしたりできるのに加えて、いくらでも血出るんでしょ!?めっちゃクールだよねっ!」
「そ、そっすかね⋯⋯?はは⋯⋯」
彼女が語る内容は全て、提出した履歴書に記載していた事なので、恐らくそれを読んだのだろう。
⋯⋯しかし、自分自身も自らの能力について完全には把握しきれていないので、曖昧な返答しかできなかった。
というのも、先輩と出会うまではこの能力を使う機会というのがほとんど無かったのだ。
履歴書に記載した内容はほぼ全て、先輩と出会ってから彼女の役に立つために研究した成果だった。
⋯⋯そのため、未だに付け焼き刃感が否めず、海蜘蛛にも苦戦する始末なのだが⋯⋯
「めっちゃかっこいいしめっちゃ強いよそれっ!めっちゃ自信持って!!」
「⋯⋯はは」
⋯⋯正直、そういう事を言われるとプレッシャーが凄い⋯⋯!
「⋯⋯そういえば、ジェイソンは僕と相性が良いと思う、って言ってましたよね」
ペアを決めた際のことを思い起こしながら、率直に聞いてみる。
能力の強化に焦点を当てるとも言っていたし、もしかして俺と似たような能力を持っているのだろうか。
「うんっ!実はそうなんだ〜!お目が高いね、アカネ君!!」
満面の笑みで褒められ、思わず気分が良くなってしまう。
「一体、どんな能力なんですか?」
「ふっふっふ〜、それはね〜」
ジェイソンは含みを持たせながらリュックの中に手を突っ込む。
⋯⋯何か道具を使うような能力なのだろうか。
期待を抱いてジェイソンを眺める。
そして彼女が取り出したのは──
「──説明するよりも見た方が早いと思うから、とりあえず訓練始めちゃおう!!」
──大きな『チェーンソー』だった。
「⋯⋯⋯⋯え?」
「ん?どうしたのアカネ君。ほら、これ持って」
「え?いやっ、え?」
半ば無理やりにチェーンソーを押し付けられ、なんとか持ち手を掴む。
キラリと光る刃と全身に伝わる重量感で、緊張が高まっていく。
「アカネ君、チェーンソー使ったことある?起動の仕方、分かるかな?」
「い、いや⋯⋯っ!無いですよ⋯⋯!起動の仕方もっ、分からないです⋯⋯!」
チェーンソーの重さでバランスを崩さないように注意を払いながら、必死になって答える。
予想通りだったのか、ジェイソンはふむふむと納得したように頷くと──
「えっとねー⋯⋯ほらここ、ここのレバーをぐっと引っ張るの。スターターハンドルって言うんだけどね」
「──え?い、いやあの⋯⋯っ!?」
「さっき準備しておいたから、引けばすぐ起動するよ。私が抑えてるから、そのまま思いっきり引っ張ってみて」
──俺の正面から、手を伸ばすようにして補助をしようとしてきた。
刃はジェイソンの方を向いており、このまま起動すれば彼女は無事では済まない⋯⋯!
「あのっ、ジェイソン!このままじゃ危な──」
「──よっ!」
──瞬間、全身に大きな振動が伝わってくる。
ジェイソンが俺の手を掴み、半ば無理やりにチェーンソーを起動させたのだ。
触れたものを切断するために、刃がその回転数を増していく。
そして今、切先にいるのは──
「──うわあぁぁッ!!??!?ジェイソンッ!斬れ⋯⋯っ!これ斬れて⋯⋯ッ!?」
──肉を引き裂く、音と感触。
彼女の皮膚はやすやすと貫かれ、鮮血が吹き出す。
「──あはははッ!ほらほらアカネ君!しっかり持ってッ!」
当のジェイソンは狂気的な笑みを浮かべながら、依然俺の手を掴んで下方向に誘導しようとしている。
「──なにっ、して⋯⋯ッ!なんで、こんなこと⋯⋯ッ!?」
──彼女の行動は理解不能だった。
顔に跳ねる返り血が、より一層現実感を奪いさる。
「んー?あっははッ!大丈夫だよ!このチェーンソーは特別製で、人斬ってもあんまりキックバックとかしないからッ!」
「はぁ!?いやそういう問題じゃ──」
「──よっと」
「え?」
ジェイソンは自らの状態を気にもとめていない様子で告げる。
加えて、いつの間にか彼女の手にはもうひとつのチェーンソーが握られていた。
「⋯⋯ジェイソン⋯⋯?ま、まさか⋯⋯っ」
「うんっ!アカネ君の能力って、傷塞いだりとかの回復作用もあるんでしょ?」
最悪の想像に、ジェイソンは笑顔で返す。
「だから、お互いに体を傷つけあえば再生能力の強化になるんじゃないかなって」
「──」
⋯⋯⋯⋯終わった。
「大丈夫大丈夫!死なないように加減するからさ!あ、私には手加減いらないからね?」
「いやっ、あの⋯⋯っ!」
「そういえば言い忘れてたけど」
「ちょ、ちょっと待って──」
「──私、『不死身』だから」
──────────────────
「──でねー、それまでは私映画とか見た事無かったんだよね〜」
「──ぎゃああァァッ!!?!?」
「だから小四の頃、友達の家で初めて鑑賞会した時はすっごい衝撃的で!」
「──痛てぇぇぇッッ!!??!??」
「映画自体も面白かったんだけど、私が特に目を奪われたのは出てきた殺人鬼!」
「──うぐああァァッ!?!??!?」
「チェーンソーを軽々振り回して、決して倒れない、全てを恐怖させる絶対的な不死身の存在⋯⋯見た瞬間思ったの、私もこうなりたいって!」
「──んぎいぃぃぃッ!?!???!?」
「まぁ、そんな感じで能力者になったんだ。まだ映画の途中だったから、発現した時はびっくりしたな〜」
「──ぐぎゃあァァァッ!?!??!?」
「あはは!アカネ君、凄い悲鳴だ⋯⋯ねッ!」
「──ふぎゅァ⋯⋯ッ!?」
──ぁ⋯⋯腕、飛んだ⋯⋯
「あっははははッ!!!腕がッ!腕吹っ飛んだッ!!ほらアカネ君ッ!早く再生しないとチェーンソー落としちゃうぞー!?」
「──ふぅーッ!う、ぐあァァ⋯⋯ッ!!」
「あはははははははははははは──ッ!!」
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