第33話
「新君、そっち行っていーい?」
「う、うん」
部屋でゲームを始めて一時間くらい経っただろうか。
最初は俺がベッドに座って柊は俺の少し前にある座椅子に腰掛けてレーシングゲームをしていた。
しかし一レース終わると、「なんか姿が見えないと寂しい」と言いだして俺の隣に腰掛けた。
それも結構感覚を空けていたのだけど、一レース終わるごとに少しずつ彼女が俺の方に寄ってきて、気がつけばもう少しで肩が触れる位置にいた。
そして今、またそっちへ行っていいかと。
これ以上どこに行くんだろうと戸惑っていると、彼女の華奢な肩が俺の腕に触れる。
「あ、あの、狭くない?」
「んーん、広い部屋だよね」
「そ、そうじゃなくて」
「ほら、次のレースはじまるよ。次、勝った方が勝ち越しだから罰ゲーム用意しとかないとだね」
今、一応勝敗を競っていて、五回やって勝ち越した方が負けた方に一つ命令できるという話になっている。
提案は柊から。
ただ、勝ったところで柊に罰ゲームなんて何を言えばいいかさっぱり思いつかないまま。
とはいえ、わざと負けるなんて器用なこともできず。
迎えた第五戦。
「……あっ」
「わー、トップになった! そのままそのまま」
俺はカーブのたびに体を傾ける柊の肩が当たるたびに意識をそっちへもっていかれて。
気がつけば自分がどこを走ってるのかもよくわからなかった。
当然、俺は負けた。
「わー、勝ったよ。新君、全然ダメだったね」
「う、うん。負けちゃったよ」
「じゃあ、罰ゲームだね。私、ちゃんと考えてるんだー」
「そ、そうなの? なんか怖いなー」
何を命令されるのだろうと不安になっていると、柊はクスクス笑いながら、「そんな変なこと言わないよ」と。
「新君には、私が今言ってほしいことを当ててもらいたいな」
「言ってほしいこと? それ、罰ゲームなの?」
「命令ってことでいいじゃん。ねえ、私は何を言ってほしいかわかる?」
「え、それは……」
ピタリと体を寄せて、上目遣いで俺を見る柊の言って欲しい言葉。
これって、告白待ちじゃないのか?
いや、そうと決まったわけではない。
柊がゲームに勝ったから、賞賛してほしいとか。
「お、おめでとう?」
「ぶー。違います」
「……すごいねー、とか」
「全然ダメ。当たるまで私、帰らないから」
「……ええと」
しばらく考えた。
その間、ずっと柊の頭が俺にもたれかかっていて、思考がまとまらない中必死で考えたけど。
やっぱり、これはそういうことなのだろう。
告白を待っている、としか思えない。
ていうか柊が、好きでもなんでもない男にこんなことをするはずがない。
うん、きっとそうだ。
それに俺だって……
「柊さん」
「……ん」
「あ、あの、俺……君のことがさ」
「……」
静かに彼女が聞いている。
俺は口から飛び出しそうな心臓を手で押さえながら。
ゆっくり息を吸ったあと。
「俺、君が好きだ」
吐き出すように言った。
「……」
「俺、多分ずっと柊さんのこと、好きだったんだ。でも、気まずくなるのが嫌で」
「……」
「で、でも、やっぱり好きだ。だからもしよかったら俺と」
「……」
「……あれ?」
見ると、柊は目を閉じたまま俺にもたれかかっていた。
スヤスヤと、眠っている。
「……疲れてたんだな」
毎日朝早くから起きて仕事も俺のことも頑張ってくれて。
こうして俺のわがままに付き合ってゲームしてくれて。
そりゃ寝ちゃうよ。
でも、どうしよう。
運んでて起こすのも可哀想だし。
「ここでいいか」
そっと、ベッドに寝かせて布団をかけた。
彼女はまるで眠り姫のようにスヤスヤと、起きる気配もなく気持ちよさそうに夢の中だ。
可愛い。
それに、毎日ありがとう。
「俺、ちゃんと気持ち伝えるから。大好きだよ、柊さん」
彼女の寝顔を見ながら。
俺も床に布団を敷いて。
そっと明かりを消した。
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