第31話
「新君」
昼休みに柊が少し机を寄せながら俺の方を見た。
「ん、どうしたの?」
「あの、お弁当作ったんだけど」
「う、うん。いつもありがと」
「あのね、ここで食べない?」
「え、ここで? まあ、いいけど」
「けど?」
「い、いや、みんなに見られたら柊さん、嫌じゃない?」
「なんで? 私は大丈夫だよ?」
「そ、そっか。なら、ここで食べよっか」
机の上を片付けていると、柊が机をまた寄せて、俺の机にぴたりとつけた。
その瞬間、教室がざわっとした。
「……柊さん、どうしたの?」
「んーん、なんか他のとこに行くのがちょっと面倒くさくて。ごめんね」
「い、いや、全然俺は大丈夫」
「うん。はい、お弁当」
柊の鞄から出された弁当箱が一つ俺に渡ると、教室はまたざわついた。
俺は気まずさに少し食欲をなくしながらも、柊の作ってくれたお弁当を一口食べるとそんな気分もどこかへ飛んでいった。
「うまっ。いや、いつも美味しいけどほんと料理うまくなってない?」
「前よりおばさんに教えてもらえる時間が増えたから。高校卒業したら、厨房にも立たせてくれるって」
「卒業、かあ」
そんな先のことまで考えたことなかったけど、柊はしっかりと先を見据えているんだな。
それに、卒業してもうちで働くつもりでいてくれてるんだ。
つまり卒業後もずっと一緒、ってことか。
「俺も頑張らないと。今度何か教えてよ」
「じゃあ、今日の夜、一緒に何か作る? お弁当の仕込みとかも夜やってるから」
「ほんと? じゃあお願いしようかな」
「うん。えへへ、なんか楽しみ」
柊がニコッと笑うと、俺は急に体が熱くなった。
みんながこっちを見ているけど、それも恥ずかしいだけで嫌じゃない。
むしろ、優越感みたいなものがわいてくる。
やっぱり俺は柊のことが……
「柊さん、あのさ」
「どうしたの?」
「ええと、その、今日仕事終わったらさ、料理の前になんかお菓子でも買いにいかない?」
「いいけど、珍しいね」
「まあ、明日定休日だし。その、ゲームでもしようかなーって」
「あ、楽しそう。でも、リビングで?」
「いやー、リビングは夜中まで父さんいるし。ええと、するなら俺の部屋とか、だけど」
ずっと誘いたかったけど、さすがに部屋に呼ぶのはどうかと思って我慢していた。
でも、田宮のいうように、もし柊が嫌じゃなければ応じてもらえるかもと。
緊張したまま返事を待つと、柊は小さな声で。
「いいよ。じゃあ……今日は夜更かしだね」
その一言に俺は舞い上がって、机の下で小さくガッツポーズした。
「うん。楽しみにしてる」
「私も。楽しみ」
柊が笑うとやっぱり嬉しかった。
彼女がいない生活なんてやっぱり考えられない。
頑張って、好きになってもらいたい。
そのために今日の夜は頑張って彼女を楽しませないと。
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