第22話

「お待たせ……あ、あれ、柊さん?」


 部屋に戻ると、なぜか柊が俺の座っていた場所にいた。


「あ、ごめんちょっとこっちがよくて」

「そ、そっか。じゃあ俺はそっちに」

「こっち、来ないの?」

「……え?」


 薄暗くてわかりにくいが、柊の顔が赤い気がする。


 照れてる? 

 それになんで俺を隣に……いや、まさか。


「ええと、俺はこっちでも」

「……こっちきてほしいな」


 柊が虚な目で俺を見ながらそう呟いた。


 俺はそれを拒否することなんてできなくて。


 無意識に吸い込まれるように、気がつけば柊の隣に座っていた。


「……な、なんか暑いね」

「うん」

「ええと、喉、渇かない?」

「大丈夫」

「そ、そう。ええと、カラオケは……しないよね」

「……ねえ」

「う、うん?」

「肩、借りていい?」

「え……あ」


 俺の右肩に、柊の小さな頭がポスッともたれかかった。


「ひ、柊、さん?」

「……」


 黙って目を閉じたまま、彼女は俺に体を預けている。


 俺の心臓は破裂しそうなほど激しく脈打っている。


 息も苦しい。

 体が熱い。


 これって、やっぱりそういうことなんだろうか。

 目の前には、『淫らな行為禁止!』と書かれたポスター。


 でも、そんなの無理に決まってる。

 女の子にここまでさせといて、何もしないなんて無理だ。


 柊に、ここまでさせておいて……。


「柊、さん」


 そっと彼女の肩に手を回した。


 そして、少し顔を近づけていく。


 熱い。


 まるでサウナにいるように……ん?


「柊さん?」

「……うう」

「ひ、酷い熱だ! 柊さん、大丈夫?」


 柊の額に手を置くと、彼女は燃えるように

熱かった。


 よく見ると汗もすごくて息が荒れている。


「う、うん……なんか、ちょっとぼーっとする」

「と、とにかく出よう。ええと、肩、持てる?」

「う、ん」


 朦朧としながら俺の肩につかまる柊は、しかし足取りがおぼつかず何度も転びそうになるのを支えて部屋を出た。


 店員へ事情を説明して精算してから店を出ると、しかし柊はいよいよ動けなくなってしまった。


「……足がふらふら、する」

「柊さん、タクシー呼ぼうか」

「ううん、だ、大丈夫、だから」


 そう言いながらも今にも倒れそうな彼女とこのまま店まで歩いて帰る自信はない。


 どうしようかと悩んでいると、彼女が俺の背中にもたれかかった。


「これ、楽、かも」

「ほ、ほんと? それじゃ……あの、嫌じゃなかったらおんぶするけど」

「うん。じゃあ、お願い」


 そのまま少し腰を沈めて。

 彼女をグッと担ぐと、背中に柔らかい感触が伝わってきた。


「あ……いや、今はそんな場合じゃない」


 なるべく触らないようにとか、耳元で漏れる彼女の息に興奮しないようにとか。


 最初はそんなことを考えながらも、やっぱりしんどそうにする柊が心配で。


 俺は彼女をおぶったまま、必死に店まで走った。

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