第15話


「……私のこと、心配してくれてるんだ。嬉しい」


 電話を切ったあともずっと、新君の言葉の余韻に浸っていた。

  

 連絡が途絶えた時は、私のことなんてどうでもいいのかなって思って辛かったけど。


 家を飛び出さなくてよかった。

 新君に心配かけるところだった。


 ……でも、もっと心配してもらいたかったりもする。


 構ってほしい。

 ただ、だからといってわざと困らせるようなことをするのも気が引けるし。


 使えない女だと思われたら、クビにされちゃうかもしれない。


 そんなことになったらきっと私……ううん、ならないよね。

 ならない為に努力するし、ずっとあの場所にいる為に成長するの。


 明日も仕事。

 明後日も仕事。

 ずっと仕事。

 毎日仕事。


 それはつまり、毎日ずっと一緒ってこと。


 新君と。


「ふふっ、明日は早起きしちゃお」


 その為にも早く寝ないと。


「おやすみ、新君」


 夢の中でも会えますように。



 週末の朝。


 普段であれば学校の日よりはゆっくりめの起床なのだけど、今日はなぜかアラームが鳴るより前にパチリと目が覚めた。


 あまりにも寝覚めがよかったので、着替えてそのまま店へ行くと。


「あ、おはよう森崎君」


 やはりというか、柊が当然のようにそこにいた。


 今は店の床掃除をしているようだ。


「おはよう。てか、早くない?」

「ちょっと早く目が覚めたから。森崎君こそ、お休みの日でもこんなに早起きなの?」

「いや、いつもはもっと遅いんだけど。なんとなく目が覚めて」

「じゃあ一緒だね。あの、おばさんがね、起きてきたら朝ごはん出してあげてって」

「母さんは?」

「視察って言ってたよ? 近くのお店の」

「それ、ただモーニング食べに行っただけだよ。ったく」


 店の掃除や俺の朝ごはんまで柊に押し付けて二人仲良くお出かけとは。

 全く困った両親だなと呆れていると、柊はクスッと笑った。


「二人って、仲良いんだね」

「まあ、昔から喧嘩だけはあんまり見たことないかな」

「羨ましい。なんか、憧れちゃうな」


 モップを持ったまま、ほんのりと顔を赤くしながら呟く柊を見て俺はふと思った。

 

 彼女にも、やっぱり恋愛願望とかあるんだ。

 好きな男性のタイプとか、あるのかな。


 ……聞けないなあ。


「まあ、仲良いのはいいことだけど」

「ねっ。さてと、ご飯用意するね」


 機嫌良さそうに柊は厨房の中へ向かっていった。


 そんな彼女の背中を見ながら俺は、また同じことを考えていた。


 柊の理想の男性像はどんな人なのか。

 初恋はいつだろうか。

 今、好きな人はいるんだろうか。


 そんなことばかりが頭を駆け巡りながら、やがて彼女に「できたよ」と声をかけられてハッとして。


 慌てて厨房へ朝食をとりに行った。


 

「ただいまー。あら、二人とも朝ごはん食べたのね」


 朝食を食べ終えて食後のコーヒーを嗜んでいると、父と母が嬉しそうに戻ってきた。


 さすがに柊一人に何もかも任せて外出ってどうなんだと、文句のひとつでも言ってやろうかと思っていたところ、先に柊が母と喋りだした。


「おかえりなさい。あの、どうでした?」

「んー、美味しかったのもあるけど何より安かったわねー。明日、雪愛ちゃんも行ってきたら?」

「え、いいんですか?」

「いいわよー、毎日頑張ってくれてるのに。新、そういうことだから明日も早起き頑張りなさいよ」

 

 母はそう言って奥に下がっていった。


 そして柊もそれに続くように。

 立ち上がってコーヒーカップを持って、


「明日も、予定できちゃったね」


 ニコッと笑いかけてから、厨房の中に行ってしまった。



 

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