第13話

「よくやったぞ新。なんだ、トラブル対応もバッチリじゃないか」


 店が落ち着いてすぐに厨房から出てきた父が満足そうに言った。


「いや、さすがにあれはほっとけないから。それに、柊さんもいたし」

「うんうん、いい心がけだ。今日は客の引きも早そうだから早めに上がっていいぞ」

「え、でも」

「もちろん柊君も一緒にだ。時間があるなら二人で飲み物でも飲んでゆっくりしてたらいい」


 父はまた厨房へ。

 俺は店のテーブルを拭いていた柊の元へ向かい声をかけた。


「柊さんお疲れ様。今日はもう上がっていいんだって」

「え? じゃあ二階に行っていいの?」

「ん? あ、いや、バイトあがっていいよって」

「あ、ああ、そうなんだ。うん、じゃあここだけ片付けたらエプロン置いてくるね」


 柊は急いで皿を片付けて奥に引っ込んでからエプロンを外して出てきた。


 その後二人で空いた席に座ると、母さんが飲み物を運んできてくれた。


「はい、お疲れ様。雪愛ちゃん、今日はごめんなさいね」

「い、いえ、大丈夫です。それに、その、新君が守ってくれましたし」


 急な名前呼びに俺は一瞬ドキッとした。

 まあ、母と俺は当然同姓だからそんな言い方をしたに過ぎないとわかっていても。


 なんだろう、落ち着かない。


「新、今日はほんと母さんも嬉しかったわ。案外そういう度胸はあったのね」

「別に。女の子が困ってたら放っておくわけにはいかないだろ」

「へえ、かっこいいじゃない。じゃあ、飲んだらちゃんと送っていくのよ」

「いいから飲み物、早く置いてくれよ」

「あら、ごめんごめん。じゃあごゆっくり」


 母は他のテーブルを片付けながら奥へ下がっていった。


「ったく。ごめんね柊さん、相変わらずな母親で」

「ううん、おばさまと話してると楽しいから」

「そう? ならいいんだけど」

「うん。それより、その、さっきの話、だけど」

「さっきの話?」


 なんの話だ?

 別に大したことを話していた覚えはないんだが。


「その、困ってる女の人がいたら助けるって」

「あ、ああその話か。そりゃあまあ、一応俺も男だし」

「誰でも?」

「え? いや、まあ知らない人にまでそうする勇気はないかもだけど」

「知ってる人なら誰でも?」

「ええと、まあ、ある程度仲のいい人なら」

「ふうん」


 頷いてココアを熱そうに飲む柊の顔は少しつまらなさそうに見えた。


「ま、まああんなことはそうそうないし」

「でも、もしまたあったら?」

「そ、それはまあ、俺がちゃんと柊さんを守るよ」


 言いながら照れ臭くなって俺の前に置かれたコーヒーに口をつけた。


 その後は柊から何か聞いてくることはなく。

 ゆっくりと時間は流れていって。


 やがて互いの飲み物を飲み干して、どちらからともなく立ち上がり、一緒に店を出た。

 

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