ローソクの波に流れてます

星羽昴

ジブリの日

第1話 ジブリの日?

 202X年某月、月の最初の週でその週末・金曜日。

 彼氏の一言。


「今日は、ジブリの日だな」


 ああ、そう言えばテレビの金曜ロードショーでジブリ映画を放送するはずだっけ。作品名は『風の谷のナントカ』だったような……?



 経済は上向き、飛行機の前輪が持ち上がったところ……と財務省が言い続けるも、不況の波にドッブリ呑まれたままの我が国経済。日経平均株価は上がっても、実生活には何の恩恵も感じられない。逆に、実生活は苦しくなってる気がする。インスタントラーメンも、セールでなければ500円超えてるし。


「……と言う訳で、FXに手を出すから手伝ってね」


 わたしの宣言に、彼氏は絶句した。珈琲を持って来た彼氏の妹も「開いた口が塞がらない」と言う感じに呆れ顔をしている。

 FXと言うのは外国為替証拠金取引(Foreign eXchange)のこと。価値の変動する外国の通貨を売り買いして、その差益で儲けようと言う金融商品である。

 1ドルが145円の時にドル通貨を買って、146円になった時に売れば、1ドル当たり1円の儲け……1千ドルを取引してれば1千円、1万ドルを取引してれば1万円の儲けになると言うわけ。

 1ドルが145.1円の時に買って、145.2円で売っても、10万ドル取引なら1万円の儲けにできる。



 我が国経済の先行きは不透明。給料は上がらないから、自己責任で「お金を運用しろ」と政府が言う。投資と言えば「株」なんだろうが、勤続○年のOLの給料では一流どころの株は買えない。

 レバレッジとか証拠金取引とやらで、何とかから始められるFXにしよう……と言う話を彼氏にした。


「我が国経済の暗黒時代を、自分の力で乗り切りたいのよ」


「乗り切る前に沈没しないようにしてくれ」


「二人の結婚式をアップグレードするかダウングレードするかの瀬戸際だと思って、貴男も協力してよね」


 珈琲を運んで来た彼氏の妹の顔が、般若のようになったが無視。



 そして、話は最初に戻る。


「ジブリ映画がテレビで放送されると、為替相場が荒れる……と言われてるんだよ」


 アノマリーと言うらしい。合理的に説明できないけれど、経験的に観測される現象……だそうだ。


「ちょうど今日は、月初めの第一金曜でジブリ映画がテレビで放送される。体験してみたらいい」


「え? でも、わたし何にも準備してないよ。FXの口座もまだ作ってないし」


「デモ用の口座ならその場で作れる。試しにその目で見てみるといい」


 彼氏にそう言われて、ジブリの日とやらを体験することにする。

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