甘々な空気いかがですか?
越山あきよし
甘々な空気いかがですか?
本日は高校の文化祭。
僕は文芸部員として店番をしている。
場所は校舎3階、端の教室。
「いらっしゃいませ」
「いかがですか」
校内各所で喧騒が流れる中、僕がいる教室は静謐に包まれている。
「人、来ないね」
「そうだね」
話をかけてきたのは僕と同じ文芸部員で一緒に店番をしている気になる女の子。
黒髪ストレートのロングヘア。
教室内には20席程あるけど、すべて空席だ。
ふたりっきり。
いつ人が来るかわからないし、廊下から教室内を覗けるから変なことはできない。
もちろん。変なことをする気は微塵もないから関係ないのだけれど。
ただひとつ言えるとしたら僕はこの時間が好きだ。
誰でもそうだろう。
特段なにもしていなくとも気になる異性とふたりっきりなのだから。
この時間を大切にしたい。
そんなことを考えていると来客だ。
足音を立てながら教室に入ってきた。
うさぎの仮面を被っている。
黒いTシャツには月のマークがある。
変な人が来た。
ただその変な人に見覚えがある。
僕らと同じ文芸部員だ。
客として来たことにしてほしいという思いを空気で察した。
サクラかな?
サクラなら普通にしてほしいけれど。
「いただきます」
両手を合わせながら、そう言って閲覧用の文集を手に取り、席に座って読みだす。
僕は「は……い」と言った空返事しかできなかった。
しばらくすると、うさぎの仮面を被った人は文集を元の場所に置いて言う。
「ごちそうさまでした」
律儀に両手を合わせてから去っていく。
姿が見えなくなってから、隣にいる彼女を見ると目が合った。
「っぷ、ふっふ。今のなに?」
「さぁ」
ふたりで笑い合い余韻を楽しむ。
「なにか食べたのかな?」
「見てみるか。どこかのページがなくなってたりして」
「やだ」
僕がページをめくって確認してみると、ノートの切れ端が挟まっていた。
そこには『おいしかったです』と書かれている。
いったいなにを食べたんだ?
不思議に思うも答えはすぐにみつかった。
裏に続きが書いてある。
『おふたりの甘々な空気』
それを見た僕はドキリとした。
「どう?」
彼女の問いに平静を装って答える。
「ううん、なにも」
「そう。変な人だったね」
「そうだね」
僕がそのノートの切れ端を丸めて捨てた。
「なんか顔、赤くない?」
「そ、そんなことないよ」
「っそ」
「あのさ」
「なに?」
「このまま誰も来ないといいね」
「それは店番としてどうなの?」
「だよね」
「でも、その気持ちわかるな」
時間がゆっくりと流れていくのを感じた。
甘々な空気いかがですか? 越山あきよし @koshiyama
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