陽だまりの笑顔 3
彗が連絡してから10分ほど経っただろうか。
――カラ……ン
と、ドアが開く音がした。
今夜は彗以外の客は入れないように、店は『貸し切り』にしてある。
「あの……一夜って、ここで良いんでしょうか?」
ドアノブを掴んで肩で息をしながら、一人の青年がドアから顔を出した。
女装させたらさぞかし美人になるだろう、物凄い女顔の……オレンジゴールドに毛先へかけてピンクの長い髪をポニーテールにした青年だった。
理知的なメガネの奥でオレンジ色の瞳がキラキラしている。
頭の上で細いうさ耳が揺れていた。
「アケ、走ってきたのか?体力持たないのに」
「いや、急いで来いって言ったの、彗君じゃん……」
息を整えようとしているアケの側へ歩み寄り、ドアを閉めながらイオはアケを席へ促した。
一番奥の席へ座らせると、スポーツドリンクを入れたグラスを前へ出す。
「とりあえず、スポドリ飲んで落ち着きな。あんたが……アケさん、か?オレはイオだ、ここのバーテンダーをやってる」
出されたスポーツドリンクを少しずつ飲みながら、アケは頷いた。
「有難うございます……イオさんですね。よろしく、アケです。普段は研究者やってますけどね、兼医です」
アケと名乗ったこの医師は、細身で確かに彗の言うようにあまり丈夫そうには見えなかった。
アケの方はイオを見て、眼鏡の奥の瞳を光らせた。
「驚いた……あなた、虹境者(こうけいしゃ)か」
「こうけいしゃ?……そんなもん知らねぇよ、記憶を辿っても親の姿さえ解らねぇんだ。誰かに自分のことを言われたことすらねえよ」
アケは静かに頷くと、少しずつ飲んでいたスポーツドリンクを一気に飲み干した。
「親御さんの顔を知らないのは当然です、虹境者は元から親という存在はいないんですから」
「いない?どう言うことだ?」
黙って聞いていた彗が割って入る。
アケは頷くと、スウ……っと、器用そうな細い指でイオの髪色を示した。
「その髪色……元の色に毛先が別の色をしているのが"虹境者"の特徴です。虹境者は、虹色火山から噴き出す虹色粒子が自然に集まる特殊な場所で、自然偶発的に生まれる者を示す名称です。
自然の中で濃い魔力の粒子が寄り集まって、それが生命の形を作る。虹の魔力の恩恵を受けて生まれる、人と魔力の境目に位置付けられる者だから――虹境者」
滅多にいない物凄く貴重な存在です、私が知っているだけでも直近で虹境者が出たのは千年前ですね。と、そう付け加えたアケの言葉が頭に響く。
言われたイオは、驚いたような顔をしていた。
「なんだよ、それ……じゃあ、人じゃないってことか?」
「いいえ、人です。完全に100%うさ耳持ちの人間です。魔力から生まれただけで、なんら変わらない。けど」
そこで一旦、アケは言葉を切った。
「じゃあ、オレもひまりも人じゃなくて……虹色粒子から生まれた、ってことか……""けど""、ってことは何かあんのか?」
どうにか頭を整理して、イオはカウンターの中に置いてある椅子へ座った。
普段、客と接する時は座らない。
だが、今回は接客とは別件で話が長くなりそうだったからだ。
「えぇ、虹境者と通常のうさ耳で唯一違うのは、虹境者は持っている魔力が桁違いで大きいんです。うさ耳は耳から虹色火山の魔力を受け取って魔法を行使できるけど、虹境者は体の構成が元々魔力だから膨大な魔力を使える。
それが原因で魔力を扱いきれなかったり、精神的に不安定になったりすることもあるんです」
「オレ自身はあまり大きい魔力はないと思うが……ひまりは、妹の魔力はちょっと特殊なんだ。それが原因で色々あって今、症状が出てる」
「妹さんのこと、詳しく教えていただけますか?話したくない部分は伏せても良いので。ひまりさんを診れば本人の記憶が私に教えてくれますから」
そういうアケに、イオは一瞬考え込んだが……ゆっくりと頷いた。
「オレ達のルーツを見ただけで話してくれたあんたなら、妹をなんとかしてくれるかもしれないしな……話せることは話す。だから……どうか妹を助けてくれ」
最後は絞り出すような声でそう言って、イオは自分達の過去を話し始めた――
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