引退したその勇者、次の職業は国王です

@Katouran010

人生の変わり目

「カチン」


 俺はこの国を流れる大陸でも有数の巨大な川ボルルンガ川の水面に映った月を見ながら、目の前の友人とグラスで乾杯をした。




「これで、来月、お前は勇者引退か」




 俺結城高は18の時にここに呼び出され、勇者に任命され、10年近く前線やダンジョン等に立ち、魔物から国を守ってきた。




「お前が長年愚痴っていたから驚きはないが、今思えばどこか寂しいな」




 俺は少し前から前線に立つのを引退させてくれと王に頼んでいた。


 感慨にふけたのか、過去の思い出を目の前の友人であり、この世界に来てすぐからの友人セント・ヘレナール伯爵が語り出した。


 若い頃の思い出にふけりながら、適当にオードブルを摘んでいた。




「そういえば、引退した後はどうするんだ?」




 そう言われて、ふと気づいた。


 辞めた後のことを全く考えていないことを。




「うーん、適当に辺境の片田舎に領土でも退職金代わりに頂いて、隠遁生活とでも洒落こもうかな」




「それもありだな。まあ、たまには合わせてくれよ」




 そういうと、俺の空いたワイングラスにワインを注いだ。




 辺境領主か。俺がこの世界に来る前に元の世界ではやってたっけ。


 まさか自分がそれをすることになるとは思ってもなかったが、意外と悪くないと思う心もある。


 今はもう覚えだせないが元の世界にいた俺は、ラノベをたくさん読んでいたような記憶がある。


 俺はこの十年間、散々魔族を殺し、殺されかけた。そう思うと平穏な生活は、飽き飽きするかもだが、願ったりかなったりだ。




 そう考えて固まっていると、ドアをノックする音が聞こえた。


 セントが「入ってどうぞ」というと、メイドらしき女性が入ってきた。


 メイドは俺とセントに、伝えたいことがあるという使者がいる旨を申し上げてきた。




 服を正していると、その使者はすぐにドアの前に居り、ドアを開け、俺とセントに跪くと要件を申し上げてきた。




「セント伯爵及び勇者様に拝謁出来て光栄でございます」




 と挨拶をした後、使者は文書を読み上げんとカバンから封書を取り出した。




 なんだ? 勇者引退引き延ばしか? だが王は、今度こそは辞任できると認めくださった。そんなわけはないはずだ。


 訝しんで考えていると、喉が渇いたのでテーブルのワインを飲んでいると、使者が封を割り、読み上げ始めた。




「国王陛下危篤。セント様と勇者様は今すぐ王城に参られたし。


 また、次期国王陛下は勇者タカ・ユウキとするので、覚悟を決めろと国王陛下がおっしゃられているとのことです」




「パリン」




 想定もできない事象が起き、脳が回らなくなっていた俺は、思わずワイングラスを落としてしまった。


 「は?」――かろうじて出せた言葉だった。


 セントも情報量の長のあまり下を向いて黙っており、空気が凍り、沈黙が漂った。




 その後、使者が乗ってきた馬車に乗り王都に向かったが、脳の整理は王を直接見るまでできることはなかった。

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