少しの青春、スパイスを添えて

水波日莉

少しの青春、スパイスを添えて

 僕の人生は今まで無味無色だった。

 親に勧められた中学を受験して高校はエスカレーター式。大学も父親が通ってたそこそこいいところに入った。

 晴れて大学生。新生活が待っている。

 それなのに何故か心は薄暗い雲に覆われたままだった。

 僕は一体何がしたいんだろう? 何するのが楽しかったんだっけ?

 いつからか、そんな疑問が頭の中を渦巻くようになった。

 同級生がサークル勧誘会に一緒に行かないかと誘ってきた。

 ただの気まぐれだった。予定もないし僕は暇つぶしに誘いを受けた。

 その選択が僕の運命を変えた。

 勧誘会で順番にサークルを回っていた時のことだ。

 現役の先輩が勧誘をしていた。

 その一人に、僕は一瞬で目を奪われた。

 茶色に染めたロングの髪。長いまつ毛。顔いっぱいに笑顔を広げる女性だった。

 それは俗にいう、ひとめぼれというやつだった。

 彼女の生き生きとした姿に、何でもない僕の姿を比べたのかもしれない。

 名も知らない先輩に、僕は初めて恋をした。

 それからというもの、僕の考えは変わった。一新された。

 面倒だからと一年以上行っていなかった美容室に足を運んだ。長い髪が床に落ちる度に心がすっと綺麗になっていくの感じた。

 ファッション雑誌を買った。近くのコンビニには売ってなかったから本屋まで足を延ばした。初めて見るキラキラした世界は凄く新鮮だった。

 週末に同級生お薦めの服屋に行った。値段は高かったが、使い道がなかったお金を出せるのは少しいい気分だ。

 アクセサリーも欠かせない。テレビに映る芸能人を凝視してひたすらにブランドを調べた。

 僕は僕を少しずつ変えていった。

同級生に「お前、雰囲気変わったな」と言われた。自分の進歩を感じてちょっと嬉しくなった。

決戦の日はサークルの説明会だった。僕は入会届に、真っ先に名前を書いた。

もう僕は今までの僕とは変わっている。そんな自負があった。これまでにない程、僕は自信に溢れていた。

が。

 全ての説明が終わり、やっとあの先輩が僕の前に現れた時。

 彼女の腕は知らない男性の腕に絡んでいた。

 彼女たちの目はしっかりと交わっていた。

 僕はすぐに察した。何も言わない方が分かってしまうこともあるのだ。

 僕は一瞬で恋をして、一瞬で失恋した。


 鏡が就活用のスーツに身を包む僕を映し出す。顔色は悪くない。サークル仲間や同級生とよく笑っているからだろう、笑顔も得意だ。

 未だに彼女はいないが、あの経験は僕を変えた。

 僕の目は明るい未来を見据えている。

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少しの青春、スパイスを添えて 水波日莉 @Nichiri_Minami

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