PHANTASMAGORIA

麻生 凪

~はしがき~

『世界の全てはものではなく、できごとで出来ている。かけがえのない今は、全宇宙が共通であるとは言えない。』


 愛について語るとき、私たちはしばしば「儚さ」についても考えずにはいられない。愛の美しさは、その刹那性にあるのではないか──と。

 なぜ人は、蝋燭や線香花火といった消え入りそうな灯りに惹かれるのだろう。それは消えゆくもの、永遠ではないものが私たちの心に特別な意味を与えるからだ。

 散文にある「ものではなく、できごとで出来ている」というのは、愛を考える上で非常に深遠な洞察である。愛は物理的な存在ではなく、目に見えない関係性や瞬間の積み重ねによって形作られる。捉えどころがなく、時に不確かなのだ。光が輝くのは闇の中だからこそであり、愛が尊く感じられるのも、限りある時間とともに変わりゆくからであろう。

 永遠ではないからこそ強烈に輝く。それは、愛する人と共にする時間も同じである。正確な時計の針ではなく、それぞれの心の中で揺れ動く感情の振り子がその量を測るのだ。故に、愛にはある種の無常観が付きまとう。人を愛すればいずれ別れを経験する。恋人や家族であれ、その関係はいつか終わりを迎えるか、もしくは変わり果ててしまう。終わりがあるから今が重要になり、一つ一つの瞬間が輝きを放つ。もし人にその感覚がなければ、愛の深みは半減するかも知れない。

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