第2話 チュートリアルとは言えど、殴られれば痛いのである
とりあえず、本を取り戻さなきゃ。
そのためには強くならないことには始まらない。
伝説ともなれば、人が来ることは滅多にない。しかし、全く来ないとも限らない。
しかも最奥の、とか言いつつ、俺が死んだのは序盤も序盤のただの入口。たまたま偶然あそこに行った人があんな異質な珍しいものを見つけたら、レアアイテムとか、攻略アイテムだとか思って拾わないわけが無い!!
そうなればいよいよ見つけられなくなる。
急いで取り返しに行かないと。そのためには急いで強くならなければ!
息をゼェゼェ切らし、俺は道具屋の門を叩く。
「へいらっしゃい! 本日はなんの用で?」
「け、剣と……ぜぇぜぇ、薬草……ぜぇぜぇ」
俺はカウンターに突っ伏し、やたら声のでかい中年マスターに声をかける。マスターは、そんな俺の様子など気にもかけず事務的に返事をした。
「はいよ! 合計12ゼニーだ。うん? どーしたあんちゃん?」
わすれてた。お金が無い。身一つで飛び出してきたから無一文だ。
「ちょ、ちょっとまって!」
「おいおい、急いでくれよ? 次のお客さんもまってんだ」
チラッと店内を見渡しても、その小さな店には誰一人として客はいない。店内に次の客などいないが? え?
いやいや! そんなことは置いておいて。そこでピンとくる。これは……イベントだ!! 初期装備を揃えるっていう最初のイベント!あれは確か……
「お、思い出した! 俺! 冒険する! これ! 初めて!」
「おぉ! そうかそうか! それならこれ持ってけ! お代はいらねーからよ。出世したら返すんだぞ! お前の健闘を祈る! ガハハ!」
初めに道具屋に言った時に店主から「これから冒険に行くのか?」と質問され、それに「はい」と答えて初期装備を整えるって書いてた。
そんな質問はされなかったが……まぁいい! とりあえずなんとかなった!
先を急がねば! と、店主から少し擦り切れた皮の鎧と木製の剣をタダでもらい、腰には麻紐で括り付けた薬草を持っていざ冒険へ向かうのだった。
☆
村の周りをぐるっと一周している柵を門から抜けると、目の前の森から、
「きゃーーー!!!」
という悲鳴とともに「グルルルル」と、犬のうなりよりも汚い音が聞こえた。
薮をわって声のする方へ向かってみれば、森の開けたところに一人の少女と一匹のゴブリンが相対する場面に遭遇した。
みれば、尻もちをつきずりずりと引き下がる少女に、今にも襲いかか理想な勢いでその異形が威嚇しているではないか。
ゴブリン!! 雑魚!! 俺は咄嗟に思った。
そして同時に思った。そういやこれ、仲間集めのイベントだ!!
俺は颯爽と薮から飛び出し、新品の剣をブンブンいわせ、堂々と近づいていく。
背丈は俺の半分ほどもない醜い怪物は、すぐさま気づき、負けじと棍棒を振り回し俺を威嚇する。
「グルアアア!」
「グオオオオオオオ!!! おりぁぁぁあ!!!!」
負けじと言い返し、剣を振りかざす!
ボコ! と鈍い音がし、ゴブリンは頭を抑えて後ずさりする。頭には、俺の剣の跡が!
自分でやっておいてなんだが、可哀想である。しかし、そうもいってられない。俺はすかさずか弱き少女を背後にまわし、ここぞとばかりにカッコつける。
絶体絶命のピンチを救いに来た勇者。なんとかっこいい。大事なことを忘れている気がしたが、そんなことはもうどうでもよかった。
俺の使命は目の前の怪物を打ち倒し、少女を命の危機から救い出すこと!
だが……わかったことがある。
俺は、弱い。
最弱のモンスターの代名詞ゴブリンでさえ、俺の力では一撃粉砕出来なかったのである。しかも、先程の反動で手はビリビリと震えており、もう何発も打ち込める状態ではなかった。
あと一撃……あと一撃で決める!
「さっさと助けんかいごらぁぁぁぁああああ!!!」
右か、左か、それとも正面か。戦闘経験も無いに等しい俺だったが、若干不意打ちに近い形とはいえモンスター相手に一撃与えられた! それが、そこはかとない自信に繋がり、目の前のモンスターへの集中を高めた。
のだが、
「え?」
バキん!
突然背後から聞こえた野太い罵声に、思わずよそ見をした瞬間、左腕に激痛が走った! よそ見をした瞬間にゴブリンが勢いよく俺の腕を殴ったのだ!
貧弱な細腕は、あらぬ場所からくの字に曲がる。なんだこれ! いてぇーー!!
「わ、私に任せて! 【ヒール】!」
「はあ!?」
みるみるうちに回復し、元の様子に戻っていく折れた俺の腕。最初の一撃の疲労もなくなって、なんだか元の状態よりも調子がいいくらいだ。
ゴブリンを見ればさきほどの一撃のせいか足元がおぼついて居ないようだった。そこですかさず、めいっぱいの力を込めてゴブリンを叩く!
今度こそ、ゴブリンは力なく倒れ、俺の勝利かに思えた。
だが、俺はそこはかとない違和感を感じ、ふっと後ろを振り返る。先程までのカッコつけてやろうとか言う気持ちは一切ない。
「た、助けてくれてありがとうございます」
少女はか弱さを思わせるような素振りで、礼を言う。
しかし、そんなことなどどうでもいい。
「お前さっき、なんか言ったよな? それでおれ怪我しなかったか?」
俺が怒りを滲ませると、それを超える勢いでキッ! と睨み返し、
「ふん! あんたなんかねえ! ゴブリンにでも嬲られて地獄の苦しみでも味わっておけば良かったのよ!」
俺はびっくりした。とてもびっくりした。
目の前の可愛らしい少女の気迫と暴言に。
びっくりした拍子に思い出したが、これは初めの仲間を見つけるイベントだ。
戦い方とアイテムの使い方を学ぶチュートリアル。難なくゴブリンを倒した後、少女が「あなたは命の恩人です! 私を仲間に入れてください!」となるはず。
だがどうだ?
俺は訝しんだ。こいつホントに仲間になるキャラなのか?
攻略本には確かにそう書いていた。「はい」を選択すればそのままパーティーに、「いいえ」を選択すれば泣き落としに来て結局問答無用で仲間になる強制システム。
目の前の少女はしおらしさなどかけらもなく、絶えず俺を睨みつけている。
「え、と、え? 仲間には……?」
「誰がなるもんですか!! さっさと消えろ!」
立ち上がると同時に手に着いた砂をこちらになげつけ、少女は森のさらに奥へ駆け込む。こんなイベント知らない。なんだ? 何が起こってる?
わけも分からず、俺はその少女を追いかけ、声をかける。
「なんだって怒ってんだよ? 助けてやったんだぞ? ここはほら、仲間にしてください! とか言ってくるもんだろ?」
「うるさい着いてくんな! なんの話しだよ!」
おかしい。何かがおかしい。なぜ序盤も序盤でこんなに上手くいかないのだろうか、食い下がれば仲間になってくれるか?
思いつつ追いかけていると、なんと再びモンスターに遭遇した。ぷるんぷるんとした形状の身体が、じめんをはいずりまわる。これはあれだ、スライムだ。雑魚オブ雑魚。
連戦だが、こいつなら何とか行ける……はず!
先程ゴブリンに酷い目に合わされた俺だったが、攻撃性の欠けらも無い外見から、そう思い再び剣を握ると。
「危ない!」
先を歩いていた少女が急にこちらに飛びついてきたので、俺は顔面から盛大に地面に転げる。
「おぼふ! いてぇ! お前何す、は!? お、おい! 大丈夫か! 今助ける!」
急な攻撃に少し苛立ちを見せながら振り返ると、見れば、顔面に張り付かれ苦しそうにもがく少女の姿があった。
剣をふるおうとして、俺は咄嗟に手を止める。これでは少女の顔面にも当たってしまう!
「し、仕方ない!」
「
「い、言ってる場合か!」
ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、俺はその緑色の液体を顔から引き剥がしていく。その間にも少女はどんどん弱り、やがて動かなくなってしまう。
完全に軌道を確保した時、彼女は息をしていなかった。
死。
頭に過ぎるのはその1文字。そ、そうだ! 薬草でどうにか!
腰にぶら下げてもらった麻袋から薬草を取り出す。
これを「使えば」、体力を回復してくれる。攻略本にはそう書いてあった。
「で、どうやって?」
手に取ったところで、攻略本に書いてあるような「使用しますか?」は出てこない。
あるのはただの草にしか見えないこの薬草のみ。こんの、ただの草ァー!!!
「し、仕方ない! くそー!」
俺は薬草、もといただの草を投げ捨てると、道具屋に恵んでもらった装備を全てぬぎすて、ボロボロの彼女を背負い、先程飛び出した自宅へ全速力で駆けるのであった。
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