第10話 それは科学兵器

 少女とエミリスを連れて、俺はひっそりとしたカフェにやってきた。


「はぁ、はぁ……。よし、ここまで来ればあいつらもいねぇだろう」

「初めて……」

「初めてって何言い出すのさ!」

「なんでも、なんでもない! おいちょっとエミリスこっち来い!」


 ピンクのハーフツイン少女をテーブル席に座らせ、俺は隅の方へエミリスを運ぶ。


「で、アキトはほんとにそんなことしたんスか……」

「誤解だって! 今年最大級の大誤解! ……それよりも、あいつに上手いこと飯を奢らせるんだろ!」

「はっ! たしかに今はアキトがジブンを犯したことなんて気にしてる場合じゃないっス」

「誤解!」


 席に戻り、少女の対面に座る。


「さて、ええっと……名前聞いてなかったな?」

「ティスティナでいいよ」

「よしティスティナ、何か言うことがあるんじゃあないのか?」

「そうだーそうだーっス」

「えぇ? あぁ、さっきはありがとう」

「うんうん、それでそれで?」

「それで〜? っス」

「それでぇ?」


 ティスティナは困った顔をしながら、ピンクの髪を指でくるくるし始めた。


「いやぁ〜、それにしても危なかったよ。あと少しで死人が出ることころだった」

「死人だなんて大げさっスよ」

「いいや、あのまま君たちが止めてくれなかったら、確実にあのでっかい人は死んでたよ」

「せいぜい殴られるくらいじゃないのか…………ん? あのゴリアテの方が死ぬって言ったか?」

「そうだけど?」


 耳を疑った。言い間違いじゃないよな?


「マスター、リンゴを1つもらえるかな?」


 ティスティナが注文すると、黒スーツに身を包む初老のマスターは、鮮やかな赤のリンゴをカウンターから投げた。


 そしてローブの内側から何かを取り出した。

 スマホ程度のサイズをしていて、厚みはその3,4台分ほど。先端には金属の突起が2つ付いていて、横にはボタン。

 この世界では見たことないが、俺はこいつを確実に見たことがある……!


「見せてあげよう。ボクの発明を!」


 先端の金属を、空中のリンゴに当て、ティスティナはボタンをカチッと押した。

 すると、リンゴは一瞬光りを放ち、爆散!


「「は?」」


 衝撃的な光景を前に、俺達はポカンとした。


 そういえばあの見た目……思い出したぞ!

 スタンガンだ! 俺の知ってるやつより何倍も強力だけど!


 いやいやなんでこの世界にスタンガンなんであるんだ? ここまでの生活で一度も俺は科学的な物は見てこなかったはずだ……エミリスのパーカーを除いて。


「まさかこれ、お前が作ったのか……ですか?」

「そうだよ、この世界二の頭脳を持つボクの発明品さ!」

「ちなみに名前は?」

「決めてなかったけど……ビリビリアタックなんてどうかな?」


 微妙なネームセンスは置いておいて……スタンガンとか電撃銃とか、俺達が使う言葉は出てこなかった。

 ほんとに俺たちの世界からの模造品とかじゃないのか……!?


「ちょ〜っと待っててくれるか? ……おいエミリス、ちょっとこっち来い」

「ふぇ?」


 カフェの外にエミリスを連れ出した。


「あのビリビリアタックとかいうやつ、似たような物をこの世界で生きてきて一度でも見たことあったか?」

「一度もないっスね。発動する時に魔力も一切感じられなかったっス」

「やっぱりか……。ティスティナが持ってたあいつは、俺がいた世界の技術、科学ってのに極めて近いものなんだ」

「ほぅ?」

「あの様子じゃ他の科学グッズも持ってるだろうな」

「つまりあの子を引き入れれば」

「悪の組織に新たな武器が加わるってことだ!」


 再びカフェに入店。いつの間にか注文した紅茶を啜るティスティナの席の横に立った。


「さてティスティナ。さっき助けてやったお礼がまだだよな?」

「だからありがとうって……まさか君たちもお金を要求するつもりかい? それならボクは絶対に出さないからね!」

「最初はそのつもりだったけど、気が変わった。俺たちの組織に入らないか?」


 今度はティスティナがポカーンである。


「い、一体なんの組織……?」

「世界征服を目論む悪の組織だ! 手始めにまずこの国をぶっ潰して俺たちのものにする。そのためにお前のその技術力が必要不可欠だと思ってな」

「仕事キツいっスよ給料安いっスよ休みないっスよ!」

「余計なこと言うなバカ」


 世界征服という、あまりにも突拍子もない提案に、ティスティナは困惑顔。しかし少し考え込んでから、口を開いた。


「君たち、本気で言ってるの?」

「あぁ大マジだ」

「大マジっスよ。面白そうなんで」

「国を潰すってことは、もちろん……貴族とかも潰すってことだよね?」

「そりゃ国を潰すんスからねぇ」

「貴族とか響きからしてムカつくからなぁ、もちろん潰すぜ?」


 それを聞いたティスティナは、ニヤッと笑って俺たちの手をとった。


「その話、乗った!」

「「おおっ!」」

「君たちのために、世界二の頭脳を持つ、ボクの力を惜しみなく使ってあげよう! その代わり、約束は絶対だからね!」

「よっし! そうと決まればまずは歓迎会だ! なんでも好きなモン頼め!」

「じゃあジブンはここからここまで全部……」

「ふざけんじゃねーぞ!」

「はははっ、騒がしい生活が始まりそうだね!」


 こうして悪の組織に、新たに頼もしいメンバーが参加したのだった。

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