第2話 ひんやりぐにぐに

「ん〜〜。やっぱりここの料理は絶品っスねぇ〜」

「俺はお前のせいでステーキと米しか食えなかったけどな」


 山盛りの料理は10分もしないで皿だけになってしまった。しかもそのうち8割はエミリスの野郎が食いやがった。ふざけるなよ。


 俺の隣に座って満足げな表情を浮かべるエミリス。

 一体この小さな身体のどこにそれだけのものが入る容量があるのだろうか。とにかくこいつがほとんど俺の頼んだ料理を食いやがった。


「で、俺の話聞いてたか?」

「んぇ? 牛タンスープがなんとかのやつっスか?」

「勇者召喚な」


 クソッ! 食ってる間に俺がここに来た経緯を話してたのに、何一つ聞いてなかった!


「ま、まぁいいや。それより……その、なんだ? 約束の方は……」

「あー、そんなのもあったっスねぇ」

「忘れたとは言わせねぇ……ぞ?」


 横にいるエミリスが、両手を広げてこちらを向いている。


「なにしてんの?」

「好きにしていいっスよ」


 ……こいつには羞恥心がないのか。


 ◇◆◇


「はい、どうぞっス」


 流石に人のいる場所で少女にボディタッチというのはマズイので、人気のない酒場裏の路地に移動した。

 再び両手を広げるエミリス。相変わらず恥じらいだの悔しさだの、そういった表情は見えない。


 よぉし。ステーキと白米しか食えなかった分、思う存分やらせてもらおうか……!


「よ、よろしくお願いしますぅ……」


 やらせてもらおうか……! と意気込んだものの、女性の身体に触るのは始めてだ。

 やべぇ、めっちゃ緊張する。


「と、とりあえず後ろ向いてもらっていい、ですか……?」

「? こうっスか?」


 手を広げたまま180度回転する。流石に向き合ったままタッチは恥ずかしすぎる。俺のハートとか色々が爆発してしまう!


「し、失礼しま〜す……」


 パーカーの裾から手を入れ、キャミソールをめくる。

 するとひんやりとした人肌の感触が……ひんやり?


 少し違和感を感じたが、たぶん体温が低めな娘なのだろうということで自分を納得させる。


 そのまま手を上の方に這わせると……。


「……!」


 指がビクッと震え、呼吸が止まる。


 僅かにだが、確かに感じた。胸の膨らみ。

 画像や映像でで幾度となく見てきたその双丘を、俺は今、この両手で感じている……!


 包み込むようにして優しく揉み始める。あぁ、これが、これが胸というものなのか……!

 柔らかくて、ぐにぐにしてて、まるで……スライム?


 その四文字が脳裏をよぎった瞬間、エミリスの身体が溶け出した!


「うぉっ、なんだ!?」


 あっという間に人の形は崩れ、エミリスはぷよぷよの姿に変わってしまった! 俺が揉んでいた美少女はどこへッ!?


 あたりを必死に見回すと、足元のぷよぷよが笑い声をあげた。


「こ、これは……!?」

「美少女だと思ったっスか? 残念! スライムでした〜!」


 呆気にとられる俺。ぷよぷよに顔はないが、馬鹿にした笑みを浮かべているように見える。


「ふっふっふ〜。どうっスか? スライムの中でも随一の擬態能力は」

「どうっスかじゃねぇよ! 男心を弄びやがって! 返せよ! 食った飯とドキドキのハート返せよ!」


 必死に怒鳴り散らかす俺を、人間体に戻ったエミリスが嘲笑う。くそう、ムカつく!


「いやぁ〜、やっぱ人間ってチョロいっスねぇ〜。ちょっと誘うだけでご飯をくれるなんて」

「お前には尊厳とかないのか!」

「別に"核"以外は触覚無くせるので、触られたところでっスよ」


 こいつにとってはこの美少女ボディなんてガワに過ぎない。羞恥心が無いのも納得だ!


 ひとしきり笑ったところで、エミリスは「さて」とその場を立ち去ろうとする。


「おい、どこ行くつもりだ!」

「そりゃ次のご飯をたかりにっスよ。ジブンは忙しいんで、これでもうサヨナラっス」


 スタスタと路地裏から出ていこうとするエミリス。

 そんな姿を見ながら、俺は呆然と立ち尽くす……わけない。


 エミリスの右腕をガシッと掴んだ。


「へ?」


 想定外だろう。驚きの表情を浮かべた。


「……離してくださいっス」

「お前、身体好きにしていいって言ったよな?」

「そうっスけど……。スライムを揉むつもりっスか?」

「うん」


 俺はしっかりと頷いた。


「ハハ……ついに頭がおかしくなったっスか……? 病院なら近くにあるんで……」

「うるせぇ! 俺はなぁ、お前のせいで今女の子揉みたい欲がMAXまで来てんだよ! もうこの際美少女のガワ被ったスライムでいい! 思う存分揉ませてもらうからなッ!!」


 左腕でエミリスを抱き寄せ、胸にあたる部分を揉む。

 何の反応もない……な、知ったことか。今や揉むことに価値があるんだからな!


 手、腕、脚、太ももと色んな箇所を揉み、そしてお腹を揉むと……。


「ひゃうっ!?」


 突然エミリスが声を上げた……!


「うおっ、びっくりしたぁ! ……おい今のって……」

「な、なんでもないっス……ひぅっ!」


 お腹を押してみると、また声を上げる。


「はは〜ん、なるほど。ここがさっき言ってた"核"ってやつか !」

「ちがっ、ひぃっ……!」


 身体をくねらせて逃げようとする。逃がさんぞ。

 お腹を中心に、揉む、揉む、揉む……!

 次第に手や足、色んなところが元のスライムになっていき、ポタポタと地面に滴り落ちる。


「もうらめっ……やめ……ひゃぁっ……!」


 やがてエミリスはどろどろのゼリー状に溶けてしまい、嬌声が消えた路地裏は妙に静かになってしまった。


 ……これ元に戻るんだよな? な!?

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