第2話

私の世界はずっとモノクロだった。

キラキラした学生時代もなく、やりたいこともなかった私は、適当に選んだ会社で言われたことをやるだけの日々。生きる価値を見出せなくて、生きていても死んでいても変わらない。

そんな時、彼に出会った。

毎朝通るライブハウスの前で「お願いしまーす!」「ありがとうございます!」と元気な声が聞こえてきた。その声に思わず顔をあげると爽やかな笑顔で「お姉さんもぜひ見にきてくださいね!」とフライヤーを渡された。

あまりにも眩しくて、バッと受け取りそそくさと早歩きにその場を離れた。

胸が高鳴り、あの声と笑顔が忘れられない。

1日中彼のことが忘れられず、帰り道、いつもは早足に通り過ぎるライブハウスの前で足を止めてしまった。でも、入る勇気がなく、やっぱり帰ろうとした瞬間、誰かに肩を叩かれた。

「あれ? お姉さん入らないの?」中学生くらいの男の子だった。なんて返したらいいかわからず「いや、私なんて不釣り合いだから……」と変なことを呟いてしまう。

少年は「じゃあ一緒に行けば付き添いみたいで不釣り合いもなにもないでしょ!」と強引に手を引かれた。

その笑顔はどことなく、彼に似ている気がした。

ギリギリ滑り込んだ私たちは1番後ろの壁際に立っていた。そこからでも十分見えるくらいの箱でステージに現れた瞬間、一気に会場に熱気が高まる。

黄色い歓声が響きわたっている。そして彼が現れた瞬間、私は目が離せなくなった。朝見た時よりも、何倍もかっこよくて宝石みたいにキラキラしている。

今までが嘘みたいに世界が鮮やかになっていく。気づけば夢中でみんなと同じように手を振っていた。

ライブはあっという間に終わってしまった。

男の子にお礼を言い帰路につくと、いつもと変わらない道なのに、やけに鮮明で輝いてみえた。


人生で初めてできた【推し】だった。


そこからは夢中で、SNSをフォローし、ライブにも欠かさず通った。私の人生の全てになった。

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