少女装鎧ジノグラフ

八波草三郎

プロローグ

変身ヒーロー

 鴻ノ木こうのぎ正輝はバイクにまたがり、カーチェイスする車群を追っている。車といっても馬車の荷台に近いもの。馬に引かれず走っているに過ぎない。


 彼のバイクもいわゆるエンジンの付いたバイクとは違う。中身に至っては全く別物だ。それでも結構なスピードが出る。


「なあ、お前ら、山賊?」

「なんだ、てめぇは!」

 並走して呑気に尋ねると怒鳴り返される。

「だったら成敗してもいい?」

「ふざけんな! 痛い目見たくなかったら引っ込んでろ! って、てめぇのその乗り物はなんなんだよ!」

「いや、ライダーの乗り物っていったらこれじゃん」


 御者台の髭面でむくつけき男は目を剥いている。確かにこの異世界ジノグラフに二輪車バイクという概念はないようだ。なにより積載効率は悪い。


「じゃあ、ぶっ飛ばすから覚悟しろ」

 宣言する。

「抜かしやがれ!」

「エメルキア、ビルドイン!」

「はい」


 正輝が変身台詞を告げると二人乗りしていた少女の服が光の粒子となって消える。裸体を粒子の帯が覆って隠し、彼女の身体もまた粒子となって拡散。それが正輝にまとわりつくと装鎧のパーツにと変わっていく。


装鎧少女エルフィン! お前、装鎧戦士エルフィンアーマーか!」

「もう遅いぜ」


 金属光沢を放つパーツが正輝の身体ばかりか頭も覆っていきバトルスーツに変化した。大きなレンズ状の目。体の各所を固めるプロテクター。関節部分も被覆されガードされる。緑を基調に赤や黄色のラインや縁取りが配され正輝は変身した。


「マズい!」

「だから、もう遅いって」


 車の横腹を蹴って転倒させる。もう一台も巻き込まれて街道脇の木に衝突して止まった。横転した車からわらわらと男たちが出てくる。


「くそ、こうなったらやっちまえ」

「たった一人だ。どうにかなる」

「果たしてそうかな?」


 正輝はバイクを街道脇に停める。エメルキアは今日も彼と見事に融合していた。全身鎧のように重くはないし動きにくさもない。指を動かして拳を作ろうと、肩を上下させようと、どこも不自由な部分はない。


(行ってください、マサキ。でも、相手は普通の人間なので手加減して)

「了解だ、ルキ。軽く小突くだけにしとく」


 剣を抜いて斬り掛かってくる。この世界では当たり前に普及している両刃の西洋剣である。ただし、手入れは悪く刃毀れが目立つ。


「そんなんで斬ったら傷口ぼろぼろになるだろ」

「それがいいんじゃねえか」


 正輝が横から軽く叩いただけで剣は半ばから折れた。装鎧戦士エルフィンアーマーのパワーだと生身の相手など勝負にならない。エメルキアの言うとおり、本気で殴ったら簡単に死なせてしまう。


「そこまでじゃないか」


 ショートジャブ程度の力で殴っていくと一撃で昏倒ノックアウトする。後ろから斬りつけてくるが、刃はプロテクタの表面で火花を上げるだけで終わる。


「観念しろよ。勝負にならないぜ」

「まだだ。お前ら、隙間を狙って突け。こいつ、武器を持ってないからまとめていけばなんとかなる」

「そうはいかない」


 正輝は右手を前に差しだすと左手の二本指で空間を撫でた。


「サイコブレード」


 光の剣が出現する。変身後のパワーを物理変換した、切断力に特化した刃である。それで周囲をひと薙ぎしただけで山賊たちの剣は破片に変わってしまった。


「馬鹿なぁ!」

 頭目がおののいている。

「馬鹿はお前らさ。俺の目に留まっちまったんだ」

「くそぉ!」

「悪は成敗する」


 全員を打ちのめすと追われていた車から家族が降りてきた。口々に御礼の言葉が送られる。


「本当になんとお礼を言ったものか。ああ、多少であればお礼金を受け取っていただければ」

「必要ないさ。俺は流しの仮面ラ……、いや、装鎧戦士エルフィンアーマー。悪を討つのみ。じゃあな。道中気をつけて」


 正輝は頬を染める十五、六の少女を残してバイクにまたがり走り去った。

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