俺のことが嫌いな子を影から守っていたら、いつの間にかめちゃくちゃ甘やかされるようになってた

大川りく

第1話 自己満足という名のエゴ

「朝陽くん。はい、あ〜〜〜ん!」


「東雲さん。じ、自分で食べれるから」


「ダメだよ、右手使えないんだから」


「じゃあ、左手で………」


「朝陽くん。不器用なんだから食べられないでしょ!」


「………」


「玲香……」


「えっ!?」


「東雲さんじゃなくて、ちゃんと名前で呼んでほしいな〜!」


「えっ!? あ、いや………」


「そんなに私を名前で呼ぶのいや?」


「そういう訳じゃ……」


「じゃあ、名前で呼んで!」


「わかりました………玲香さん」


「~〜〜〜っっっ!! はい!あ〜〜〜ん!」


「あーーーん」


 数ヶ月前、ある出来事で俺は、彼女を守るために犠牲になった。

そこで、俺は彼女のために犠牲になったことを知られないためにも、あえて彼女に嫌われることを選んだ。

 もしも、彼女がそのことを知ったら悲しんでしまうと考え、俺は彼女と関わらないことを決めたのだが………


 どうしてこうなった?

 



 

 ※



「好きです。結婚してください。」


 それは高校2年生の始業式、隣に座っていた彼女に出会った瞬間に告白した。

 告白ではなく、プロポーズだろうか?


 一目見た時、


  運命だ。って思った。


 そう思わせるほど彼女は綺麗だった。


「えっと。ごめんなさい」


 そんな一言から彼女、東雲玲香しののめ れいかさんと俺、碧星朝陽みほし あさひの関係は始まった。



 ** 月日は流れ


「東雲さん。今日も可愛いよ」


「あ、ありがとう」


「伶香ちゃん、顔赤いよ」


「いい加減お前らもう、付き合っちゃえよ」


「~〜〜〜っっっ!!」


「あっ!逃げた!」


 それから俺は毎日、愛の告白もといプロポーズをし続け、いつしか俺の言葉も受け入れられるようになっていた。


 そんなことに喜びを感じており、こんな日々がずっと続けばいいと思っていた。

 その時の俺は、まだ知らなかった。

 自分たちの日常は簡単に壊れてしまうということを。



 遡ること1ヶ月前



 東雲さんは泣いていた。教室でクラスの女子たちに慰められながら。


 どうやら学校帰り、不審者に襲われたらしい。

 直接的な被害は受けていないようだがが、住人が発見するのがあと少し遅かったら、本当に危ないところだったらしい。


 その結果、東雲さんはしっかりと心に傷を負っていた。


 そんな姿を見て、『俺が彼女を守らなければ』そう思った。

 いや、そう思ってしまった。


 そして、その日を境に俺の中にある何かに火が付き始めた。


 毎日、放課後になっては、東雲さんの後をつけ始め、影から東雲さんを守りつつ、害を及そうとするやつは片っ端から叩き潰す。


 ただのストーカーと言われてもおかしくない行動に出てしまった。


 東雲さんは帰り道に絡まれることが急に無くなったのと同時に、学校に来るたび怪我が増えている俺を怪しく思ったのか、一度だけ「なにかあった?」と聞いてきた。


 バレるわけにはいかない為、何でもない。と答えた。


 お礼を言われたいから、助けるんじゃない。

 あの子が好きだから、そんな一心で東雲さんを守り続けた。


 そんな生活が数週間、続いた頃のことだった。



 学校中に噂が流れた。


 俺が東雲さんを追いかけ回していたこと、それを止めようとした人を何人も病院送りにしたと言うこと。


 噂から察するに、俺が倒した奴らの仕業だろう。


 実際に、病院送り寸前程度の怪我を負わせているし、彼女の行動範囲内で、毎日俺の目撃情報もあったことから、噂はすぐに学校中に拡散された。


 こうして俺は、不審者から東雲さんを守った正義のヒーローではなく、東雲さんをつけ回し襲おうとしたストーカーと言うレッテルを貼られた。


 傍から見れば、間違ってないこともあって、俺はそれを否定しなかった。


 もちろん、それは東雲さんの耳にもすぐに入り、俺は彼女に問いただされた。


「ねえ、私を尾けてたって本当?」


「…………」


「さらに、たくさんの人を傷つけたって………!」


 言葉の節々には怒りではなく、信じられないという気持ちが強く窺えた。


「…………」


「どうしてそんなことしたの………?」


「…………」


「ねえ、何か言ってよ………!」


 もしここで、真実を言ったらどうなるだろうか?

 そんな訳がないと言って、俺を否定するだろうか?

 いや、たとえそれが虚言だとしても、彼女はその言葉を信じてしまう。こんな俺にも手を差し伸べてしまうだろう。


 だからこそ、真実を言う訳にはいかない。


 今、学校内での俺の評価は最悪だ。


 廊下で行き交う人は全く目を合わせようとぜず、教室では、遠目から恐怖と軽蔑を含んだ目線を向けられる。


 今は噂に留まっているが、すぐに学校から処分を受けるだろう。退学にまで至らなければ良いが、仮に学校にいられたとしても。


 この先、俺は高校生活において、ありふれた青春なんてものは謳歌できなくなるだろう。


 それに東雲さんを巻き込むわけにはいかない。


 俺は、彼女のためならなんだって出来る。

 この瞬間だってそう思い、犠牲になろうとしているが、別に辛くないわけじゃない。


 東雲さんの事じゃなかったら、とっくに逃げてる。俺はそんな男だ。


 そんな状況だからこそ、彼女が俺に手を差し伸べってしまったら、絶対に彼女の優しさを拒絶することなんてできない。


 仮に、そんなことになれば、東雲さんを助けた意味が無くなる。


 今だって、俺がそんなことするわけがないと信じ、こうして直接問いただしている。


 そんな優しい彼女を。巻き込みたくない。


「………」

 

 それに、どんな理由があろうと俺の身勝手な行動が今、東雲さんを不安にさせてしまっている。


 そんな自分が許せない。


 そんな俺に彼女と関わる資格はない。


「あぁ、噂は本当だよ」


 後悔はない。間違ったとも思わない。


「えっ!?」


 犠牲になるのは俺だけでいい。


「君を襲おうとしたよ」


 俺は自己満足を貫いた。














     だが、噂を流したやつは絶対潰す。






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