妹の食生活改善革命【1分間小説】

楠本恵士

妹の食生活の感覚はどこかおかしい

 妹が食事中に妙なコトを言いはじめた。

「お兄ちゃん、あたし決めた……この食事から、食べた物を牛みたいに反芻はんすうするコトにする」

「おまえ、何言っているんだ?」

「だって、あたし胃腸弱いから……反芻したら、ウ○チも便秘にならないで出ると思うんだ……あたし野菜好きだから、最終的にはワラだけ食べて生活する」

「勝手にしろ」

 オレは、どうせ続くワケが無いとタカをくくっていた。


  ◆◆◆◆◆◆


 数日後──リビングでテレビを観ていた妹の、頬がいきなり膨れて反芻はんすうがはじまった。

「うぷッ……今朝、食べた物が胃袋から逆流してきた」

 妹はクチャクチャと、食べた物の反芻をはじめた。


  ◆◆◆◆◆◆


 数週間後──妹はついに近所からもらってきたワラを、食べるようになった。

 オレが肉は食べなくても大丈夫なのか? と尋ねると。

「胃の中に微生物を定住させていて、そこからタンパク質摂取をしているから大丈夫」

 そう、言われた。


  ◆◆◆◆◆◆


 さらに数週間後──妹はまた妙なコトを言いはじめた。

「お兄ちゃん、あたし鳥みたいに小石を呑み込んで、食べた物を体の中ですり潰す」

 オレは驚いた。

「ち、ちょっと待て! おまえ人間だぞ!」

 オレがいくら止めても、妹の意志は固く妹は道に落ちている小石を、呑み込むようになった。


  ◆◆◆◆◆◆


 しかし、妹の体調が悪くなるコトは無く……それでも心配になったオレは、妹を病院に連れて行ってバリウムのレントゲンを撮ってもらった。

 レントゲン写真を、見た医者が驚いた顔で言った。


「妹さんには牛のような四つの胃が形成されています──第一の胃袋『ミノ』・ 第二の胃袋『ハチノス』・ 第三の胃袋『センマイ』・第四の胃袋『ギアラ』……これは人間の進化です」


 医者は、さらにレントゲン写真の胃の上の方にある、小石が詰まった袋を示す。

「これは、鳥が飲み込んだ小石を溜めておく『砂嚢さのう』です……妹さんはこんな消化器官まで、体の中に形成してしまったんです……人体の神秘です」


 興奮している医者を、冷ややかな目で見ているオレに妹が言った。

「お兄ちゃん……爬虫類とか魚類の中にはオスがいなくても、自分のクローンを作って単植生殖する個体もいるんだって……あたしも単植生殖したい」

 オレは沈んだ声で妹に言った。

「頼むから、それだけはやめてくれ……人間としての尊厳が失われるから」

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