平凡な主婦のわたしが騎士団の団長とか
もこともこ
第1話
何処にでもいるごく普通の主婦の生活。1週間は月曜日の朝のゴミ出しから始まり、朝食の準備をしながら娘のお弁当も作り、わたしは適当に昨夜の残り物をレンジでチンして食べる。スキンケアと下地のファンデを塗ったら軽めのメイクを済ませ、あとはマスクでごまかし、パート先のスーパーで9時から16時まで働く…
そんな事の繰り返しでわたしの1週間は過ぎ、気が付くと娘は高校生に、わたしはシワの気になる37歳になっていた。(新しい美容液欲しいな…高いけど)
特にコレといった趣味なんてわたしには無いけど、最近良く聞く『推し活』って言葉、今のわたしにはちょうど良いビタミンのサプリみたいな感じ。
そうそう、自己紹介するわね、わたしの名はトモミ、旦那さまはわたしより3つ歳上で現在海外赴任中で3年目。子供は1人で、春から高校生2年生になった娘のトモコ。娘は名門校のバレーボール部に所属、その影響で最近わたしは高校生の頃までやっていたバレーボールを復活させたの。試合を観るのもやるのも大好きで、わたしの推しは日本代表の石川選手!
明日はわたしの所属するママさんバレーの試合、今夜も家事を済ませたら練習に行かなくちゃ
「トモコ〜、晩ご飯作ってあるからお味噌温めて食べてね!お母さん練習行ってくるから〜」
「はーい、行ってらっしゃい!そうだ、練習の帰りにコンビニでプレミアムスイーツ買ってきて〜めちゃ美味しいって聞いたよ!」
「あら、トモコ、ダイエットやめたのね!良いわよ、わたしも食べたいから笑」
わたしはそう言って玄関から出ると、スポーツバックを自転車に乗せ、市民体育館に向かった。
まさか、こんな他愛もない普通の、ごくごく普通の日常会話が現世での最後の会話になるなんて、思いもよらなかったのだけど…
え、もうこんな時間?やだな、ちょっと遅刻しそう…近道して行こう
わたしは体育館への道を普段使わない近道で郊外のトンネル、籠原隧道を通る道を選んだ。街灯も少なく、なんだか少し怖いのでそこのトンネルは普段からあまり使う人は居ない。
トンネルに入ると、天井の街灯がチカチカと点滅していて気持ち悪い…わたしは直ぐに抜けようとペダルを漕ぐ足に力をこめた。
その瞬間、前方からヘッドライトの様な強烈な白い光が目を覆う!
あっ、車⁈危ない!
※※※※※※※※※
「ううっ…いっ痛い…」全身に広がる痛みで目を覚ました。
わたしどうしたんだろ、お、思い出せない…
薄らと目を開けると、そこには満点の星空、草の匂い、顔にあたる草のツユ…
全身の痛みを感じながらも、なんとか起き上がると、そこは緑豊かな大草原。その傍にはわたしが普段乗っている自転車はなく、スポーツバッグもない。代わりに、見慣れない装飾が施された、重厚な西洋の鎧を身につけている。周りには、剣と盾を持った兵士たちが倒れており、その中心には巨大な何かが立ちはだかっている。
それはわたしに気がつくと、こちらに向かって咆哮し、襲いかかってきた!
ちょ、何なの!まってまって!
その化け物は巨大な斧を振りかざし、立ちすくむわたしの頭上に振り下ろす!
ひゃぁ!
絶体絶命のそのとき、体が反射的に動いた。回転レシーブ!
バレーボールで培った瞬発力、そしてボールの動きを予測する洞察力が覚醒し、化け物の攻撃を華麗にかわした。
え?身体が勝手に!
さらに、わたしは攻撃をかわすだけでなく、その隙を突き、スパイクの時のように大地を蹴る。強力なジャンプで宙に舞い上がり、手に持っていた長い剣を化け物の頭に振り下ろした!
ヴォォオ!
ドサッ!
化け物の断末魔の叫びが周囲に広がった。咄嗟の判断で目の前の化け物を一刀両断にしたわたしは、手にした血だらけ剣を見て我に返った。
「わ、わたしは…いったい?ココはどこ⁈って何なのよこの格好⁈そ、そうだわ、たしか車に轢かれそうになって…自転車で転んで、頭をうったのね!そうね、きっと悪い夢だわこれは!」
わたしは訳も分からず立ちすくんでいると、ガチャガチャと音を立てて近寄ってくる男性達に声をかけられた。
「団長、ありがとうございました!間一髪の所、助かりました!敵の襲撃はもう大丈夫だと思います!」
だ、団長??
何言ってるのよ、この子達は⁈
頭の中は「夢だ、これは夢だ」という思いでいっぱいだった。しかし、目の前に立つ兵士たちの真剣な表情と、身につけた鎧の冷たい感触が、これが現実であることを突きつける。
「団長、どうかされましたか? お怪我は?」
そう声をかけてくるのは、先ほど倒れていた兵士の一人。彼はわたしの全身を心配そうに見回している。
「えと……あの、私、だ、団長じゃないんですけど……。それに、あなたたち、一体なに?」
わたしの言葉に、兵士たちは顔を見合わせ、戸惑いの表情を浮かべました。
「な、何を仰るのですか、団長。ご冗談はやめてください。まさか、先程のあの怪物の攻撃で頭を……?」
兵士はそう言って、他の仲間にも呼びかける。
「おい、団長が記憶を失ったかもしれないぞ! 魔物の神経毒にやられたのか?」
「ば、バカな! あの団長に限って!」
兵士たちの動揺が広がっていき、わたしは彼らの反応を見て、さらに混乱した。
「蒼穹の騎士」という言葉が、彼らの口から頻繁に飛び交いかい、どうやら彼らはわたしを伝説の騎士だとか「蒼穹の騎士」だと信じ込んでいるようだ。
すると、倒れていた兵士たちが次々と目を覚ましまし、彼らはわたしの姿を見るなり、深々と頭を下げて感謝の言葉を述べ始める。
「団長のおかげで命拾いしました!」
「さすがです!たった一人でこの数の魔物を殲滅するとは……」
視線の先には、先ほど彼女がバレーボールの技で倒した巨大な化け物の姿が横たわる。その周りには、無数の小さな魔物の死骸が転がっていた。
わたしは知らないうちに、たった一人でこの戦いを終わらせていたようで…
わたしの頭はパニックでいっぱい、飽和状態!
「団長、どうかされましたか?」「お怪我は?」
心配そうに駆け寄ってくる兵士たちの声も、わたしの耳には次第に遠く聞こえるが、彼らの顔は真剣そのもので、冗談を言っているようには到底見えない。
(ダメだ、きっと話しても通じない。こんなの、夢に決まってる。そうよ、これ、誰かのドッキリだわ……!)
そう自分に言い聞かせ、わたしは周囲を冷静に見渡した。兵士たちは周りに集まっており、完全に警戒を解いている様子。
「……トイレ、行ってきま〜す」
とっさにそう口をついて出た言葉に、兵士たちは戸惑いの表情を浮かべる。
「と、トイレ……でありますか? この場所には……」
彼らがそう言う隙に、わたしは一歩、また一歩と後ずさりして、彼らから距離を取りそして振り返ることなく走り出す!
「ちょっ、団長!?」
兵士たちの叫び声が背後から聞こえてくるが、わたしは止まらない。重い鎧を身につけているはずなのに、体はママさんバレーで鍛えたおかげか、驚くほど軽やかに走ることができた。
森の中を走り抜けると、やがて開けた場所に出る。そこには、遠くに見える壮麗な城と、その城へと続く一本道が広がっていて…
(お城……!ゲームのドラ◯エじゃないんだから。でも、この世界が本物だとしたら、元の世界に戻る手がかりがあるかもしれないわよね。このままじゃ……あぁ、もう、トモコ心配してるかな、明日の試合どうしょう…)
頭をよぎったのは、娘のトモコのこと、そして明日のママさんバレーの試合のことだった…
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