臓器のスポンサー契約
ちびまるフォイ
健康であることが求められるスポンサー
「はあ、健康診断は嫌いだ……」
会社からの通告も無視できなくなり、
しぶしぶ健康診断へと向かうことになった。
食事制限、バリウムの飲用。
その結果、待っているのはダメ出し。
なにが楽しくて健康診断しなくちゃいけないんだ。
「はい次の人」
呼ばれてカーテンの内側に入る。
横並びになった診断場所でふと隣の人の体内画像に目が留まる。
「なんで肝臓にロゴが……?」
内臓透視カメラでモニターに映し出された臓器の様子。
そこには健康そうな肝臓と、なぜかお菓子の会社のロゴが映っていた。
自分のと確かめてみるも、自分は弱った肝臓だけ。
ロゴはない。
「はい終わりです」
診断を終わった。
終わるなり隣の人に声をかけた。
「あの、なんであなたの肝臓には企業ロゴが?」
「え? ああ、私は臓器スポンサー契約してるんですよ」
「なんですかそれ」
「お菓子の会社と肝臓スポンサー契約をすれば、
糖分を分解できるように肝臓を強化してもらえるんです。
肝臓にロゴはプリントする必要はありますがね」
「そんなことが……!」
目からウロコだった。
健康診断を終えるなりさっそく臓器スポンサーに連絡を入れた。
「あの! 僕の臓器もスポンサーになってもらえますか!?」
いくつかの健康度合いチェックを重ねて、
スポンサー契約が成立すると自分の臓器はロゴだらけになった。
肺は空気清浄メーカーの会社ロゴ。
胃はチェーン店の会社ロゴ。
腎臓には水の会社のロゴ。
肝臓はビール会社のロゴ。
などなど。
レントゲン撮影したらロゴしか見えなくなる。
臓器をスポンサー契約すると良いことばかり。
空気清浄メーカーによる最新の清浄技術で、
肺は常に新鮮かつキレイな空気を吸い込むことができる。
肺の性能アップ。
肝臓もアルコールを取り扱っている会社なので、
いくら飲んでもパワーアップした肝臓が分解。
二日酔いとは無縁の体を手に入れた。
「ああ、もっと早くにスポンサー契約しておけばよかった!!」
内側からアップグレードに成功した体を手に入れた。
スポンサー契約は30年契約にしたので、30年は健康体が維持されるだろう。
ご機嫌でスキップしていると、コンビニから男が飛び出したのが見えた。
「ど、どろぼーー! 誰か追って!!」
カラーボールを投げる店員が叫んだ。
まるで自分に助けを求めているようじゃないか。
「フフ。俺の筋肉はプロテイン会社がスポンサー。
この強化された体で追いついてやるぜ!!」
ドーピングにドーピングを重ねた体は泥棒に向かって猛ダッシュ。
あっという間に追いついてしまう。
「さあ、観念しろ!!」
今まさに逃げる泥棒の肩を掴もうとしたとき。
横から突っ込んでくる車には気づかなかった。
「んげふっ!?」
車に跳ね飛ばされて地面に叩きつけられる。
泥棒はあっさり捕まったが、自分はぴくりとも動けない。
やがてやってきた救急車に運ばれて病院へと搬送された。
幸い、大事にはいたらなかったようでしばらくの入院生活となる。
「危なかった……。骨のスポンサーに、牛乳の会社が入っててよかった……」
少しずつ復調していくと、今度は電話がひっきりなしに鳴り続ける。
自分を心配してくれた友人だろうか。
番号を見て違うとわかる。
どう見ても企業の番号だ。
「もしもし……?」
『肝臓スポンサーの〇〇ビールですけどもね。
ちょっとスポンサー契約打ち切らせてもらいますわ』
「はあ!? どうして急に!?」
『あなたの身体事前検査で、あなたは事故起こさないような人間だと思ったんです。
でもいつ臓器が壊れるかもわからないような人間だとわかりました。
今回の件でうちはスポンサー撤退させてもらいます』
「そんな……今回はたまたまですよ」
『その1回でもスポンサーの悪印象になるならNGなんですよ。それじゃ』
電話はそこで終わった。
スポンサーの撤退は何も肝臓だけではなかった。
他のスポンサーも「怪我するようなやつにロゴ載せられない」と、
潮が引くように次々契約を打ち切っていった。
パワーアップしてアップグレードしていたはずの体内は、
スポンサーの撤退によりもとのズタボロな状態に戻る。
肝臓は弱まり、肺は真っ黒。
胃には穴が空き、腎臓は淀む。
無事だったはずの骨もスポンサー撤退により強度が下がり、
遅ればせながらの骨折となった。
「なんでこんな追い打ちされなくちゃいけないんだ!」
最後に連絡してきたのは心臓のスポンサー。
もはや用件は聞くまでもない。
『スポンサー契約は打ち切らせてもらいますわ』
「ちょっと待ってください! 今心臓にスポンサー抜けられたら。
心臓が弱ってしまって死んでしまいます!」
『それはそっちの問題でしょう? 知らんですよ』
「なんて無責任な! この人殺し!」
『そういうわけなので。それじゃ』
ついに心臓スポンサーも撤退。
一気に心臓は弱まり眼の前が暗くなっていく。
居合わせた医者が青ざめる。
「心音が弱まってる!!」
「ああ……もうダメだ……」
ついさっきまで健康だった体はどこへやら。
スポンサー撤退で自分の人生は終了した。
次に目が覚めると同じ病室だった。
「あれ……? 先生、俺は死んだんじゃ……」
「危ないところでしたよ。施術が間に合ってよかった」
「俺の臓器、もうスポンサー撤退してボロボロだったでしょう。
いったいどうやってあそこから持ち直したんです?」
「時間もなかったので、病院のほうでスポンサー契約いたしました」
「え」
「あなたの臓器は病院のスポンサーロゴが出ています。
でも困ったらいつでも無償で手術ができますよ」
「ありがとうございます! これでずっと健康だ!」
「ええもちろんです。はいこれ契約書」
スポンサー契約書を受け取った。
そこの最後の文章に目が止まった。
「あの……これ、最後の文章はどういった意味ですか?」
「そのままの意味ですよ?」
医者は悪びれずに答えた。
「もし、病院側で臓器が必要になった場合には
スポンサー契約している臓器をいただきますね」
自分をただの歩く臓器貯蔵庫として見てる目をしていた。
臓器のスポンサー契約 ちびまるフォイ @firestorage
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