漫才12「死後の世界」
幌井 洲野
漫才「死後の世界」
<これは漫才台本です>
セリフの掛け合いをお楽しみください。
【死後の世界】
二人 「どうも~ アヤミとアズサでアヤアズです~ よろしくお願いします~」
アズサ「アヤミ、あんたアヤミやんな?」
アヤミ「うん、多分そうやと思うけど、ちゃうかったらかんにんな」
アズサ「うん、別に、あんたアヤミでなくても、漫才できたらそれでええから大して気にしいひんわ」
アヤミ「うん、ウチ、その程度の存在やからな。おおきに」
アズサ「さ、漫才やろか?」
アヤミ「なんやちょっと納得いかんけど、やろか?」
アズサ「うん」
アヤミ「な、アズサ、あんた、死後の世界て知っとる?」
アズサ「シゴの世界? あ、知っとるよ」
アヤミ「ほんじゃ、ウチ、エンマさまやるから、アズサ、新入りさんやって」
アズサ「わかった」
アヤミ「うーん、次の新入りはどこや?」
アズサ「お待たせして申し訳ございません。当方、ただいま到着させていただきました」
アヤミ「おお、なかなか丁寧な言葉遣いやね」
アズサ「はい、ワタクシ、こう見えても、ナウなヤングですので、ガッツがあります」
アヤミ「ナウ? ヤングか。まあええ、それで、そのほう、なぜここに来よった?」
アズサ「ええ、シゴの世界言うて、ワタクシ、少しばかり編集の仕事などしておりまして」
アヤミ「なるほど、服装もなかなかきちんとしておるな」
アズサ「はい、ワタクシ、女ですけど、チョッキの付いた三つ揃いの背広でございます」
アヤミ「背広か? スーツ言わへんのか」
アズサ「はい、さようにございます。許してちょんまげ」
アヤミ「ま、ええわ。それに、直帰言うても、ここまで来たら、もう家には帰られへんで」
アズサ「え、さようにございますか? ワタクシ、ここの仕事が済んだら、バイならしようと思っておりましたゆえ、そこんところよろぴく」
アヤミ「なんや、アズサ、えらい言葉古くないか?」
アズサ「え、だって、アヤミ、死語の世界言うから、ウチ、頑張ったんやないか」
アヤミ「いや、そのシゴやなくて、もっと怖いヤツ」
アズサ「あ、あれか、わかった。もう一度やろ」
アヤミ「うん、頼むで」
アズサ「はい」
アヤミ「うーん、次の新入りはどこや?」
アズサ「はい、こっちいまーす」
アヤミ「なんや、エンマさまの前でえらい軽いな」
アズサ「うん、ウチな、今度駅前にできたな、あのカラオケ、昼間めっちゃ安いんやて」
アヤミ「カラオケ行くんか?」
アズサ「ほんで、授業抜けて、こんど行かへん? あのセンセの授業とかな、もう聞いてられんしな」
アヤミ「こら、そのほう、そんな不真面目では、地獄に落ちるぞ」
アズサ「地獄言うか、あ、ね、ちょっと聞いてな、こないだ道歩いとったらさ、なんや、茶トラのニャンコが道の真ん中で昼寝しとってさ、めちゃカワイイんよ。な、ウチもあんな風に昼寝して一日過ごしたい」
アヤミ「アズサ、それ、ひょっとして」
アズサ「うん、私語やけど。はやくセンセ怖わぁ怒ってくれへんと止まらんよ」
アヤミ「そのシゴともちゃうな。あのな」
アズサ「あ、わかった、あれやあれ、な!」
アヤミ「うん、分かったん? 分かったならやるで」
アズサ「うん、ほな始めよ」
アヤミ「三度目やで。しっかりしてや。…次の新入りはどこや?」
アズサ「あ、え、ここはどこ? どうしてウチ、こんなところに? きゃ、あなたは誰?」
アヤミ「ようやく分かったか。ここは死後の世界や。オマエはここで、ワタシの裁きを受けるのや」
アズサ「えー、そんな。ウチ、まだ仕掛かり中の原稿がたくさん残ってて、特にカツベアヤミセンセが締め切り過ぎても原稿送って来はらへんのです。どうにかしてください」
アヤミ「いきなり現実のこと持ち出さんといて! ていうか、オマエはここで死後と生前のおこないから、どちらに行くか決まるんやぞ」
アズサ「うわぁ、仕事整然て、すみません、エンマさま、かんにんしてください。私の仕事が遅いんは、みんなカツベセンセが原稿出しはらないからなんです。あの人、高いとこに上って湖見て風が吹かんと、アイデアが降りて来いひんの」
アヤミ「現世のホンマのことは言わんでよろしい」
アズサ「ほんで、整然いうて、ウチのデスクがゴチャゴチャなんは、カツベセンセの原稿が遅れておって、みんなカツベセンセが…」
アヤミ「アズサな、あんた、エンマさまがホンマ、ウチやったら、ただじゃすまんで」
アズサ「あー、かんにん。今度こそ仕事は整然とするよって。ホンマ許して」
アヤミ「ま、確かに、ウチも締め切り破ってばかりでホンマかんにんな」
アズサ「なんや、そんなセリフ言えるなら、生前から反省しとき。そやないと、死後にエンマさまに地獄行かされるで」
アヤミ「なんや、全部分かっとるやんか」
アズサ「えへ」
アヤミ「ええかげんにせえ」
二人 「どうも失礼しましたー」
(了)
漫才12「死後の世界」 幌井 洲野 @horoi_suno
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