『俺達のグレートなキャンプ116 伝説のシルバーチャーハンを作るぞ(何それ)』

海山純平

第116話 伝説のシルバーチャーハンを作るぞ(何それ)

俺達のグレートなキャンプ116 伝説のシルバーチャーハンを作るぞ(何それ)


石川がテントから飛び出すように顔を覗かせた。髪の毛はまるで爆発したかのようにボサボサで、目には異常なまでの輝きが宿っている。まだ朝の7時だというのに、その表情は既にMAXテンションに達していた。

「おはようございまーす!今日もグレートなキャンプの始まりだぜー!」

石川の大声が湖畔のキャンプ場に響き渡る。近くでコーヒーを淹れていた他のキャンパーがビクッと肩を震わせ、カップを落としそうになった。隣のテントから富山が這い出てくる。寝癖で前髪が変な方向に跳ねており、眉間にくっきりと縦ジワが刻まれている。

「石川...もう少し静かに...」

富山は片手で額を押さえながら、疲れ切った表情でため息をついた。彼女の目の下には薄っすらとクマができており、石川の前夜のテンションについていけずに眠不足だったことが一目で分かる。千葉がテントから勢いよく飛び出してきた。石川とは対照的に、髪の毛はきちんと整えられており、目をキラキラと輝かせている。

「おはよう石川!今日はどんなグレートなキャンプをするんだ?」

千葉の問いかけに、石川の目がさらにギラリと光る。両手をグッと握りしめ、まるでボクサーが試合前にファイティングポーズを取るかのような気合の入った姿勢になった。

「フッフッフ...千葉よ、今日は特別だ。今までの115回のキャンプを遥かに超える、究極のグレートキャンプをやってやる!」

千葉が息を呑む音が聞こえた。一方、富山の眉間のシワがさらに深くなり、右手で左腕をギュッと掴んでいる。不安そうに視線を泳がせながら、小さく舌打ちをした。

「ちょっと石川...また変なこと考えてるでしょ...」

石川はそんな富山の心配を一切気にする様子もなく、両腕を大きく広げて空に向かって叫んだ。

「今日我々が挑戦するのは...『伝説のシルバーチャーハン』の制作だ!」

湖畔に静寂が訪れた。風で木の葉がザワザワと揺れる音だけが聞こえる。千葉は目をパチクリとさせて固まっており、富山は口をポカンと開けたまま石川を見つめていた。

「...え?」

富山の困惑した声が小さく響く。石川はそんな反応を予想していたかのように、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。石川は懐から一冊のボロボロになった本を取り出した。表紙には『銀翼料理人ガブリエル・シルバーストーンの秘伝レシピ集』と金色の文字で書かれている。ただし、よく見ると明らかに手書きで、しかも字が汚い。

「これが証拠だ!この胡散臭い...いや、伝説の料理人が残した究極のレシピ本!」

千葉が身を乗り出す。

「すごいじゃないか石川!本当にそんな料理人がいたのか!」

富山は本をひったくるように奪い取り、ページをめくり始めた。すると、中身はさらに胡散臭さ満載だった。手書きの汚い字で「シルバーエッグ(鶏の卵に銀粉をまぶしたもの)」「シルバーペッパー(普通の胡椒を銀色に着色)」「銀蟹(カニ缶詰に銀色スプレーを吹きかけたもの)」などと書かれている。

「石川...これ完全に偽物でしょ...というか危険でしょ...」

富山の指摘に、石川は慌てたように本を取り返した。

「な、何を言っている!これは正真正銘の伝説のレシピだ!ただし、現代風にアレンジが必要だがな!」

石川は汗をダラダラと流しながら、必死に弁明している。その様子は明らかに動揺しており、目が泳いでいた。千葉はそんな石川を見ても全く疑わず、むしろ興奮している。

「現代風アレンジか!さすが石川、時代に合わせて進化させるなんてグレートだ!」

「そ、そうだ!例えば、シルバーエッグは普通の卵でいいし、シルバーペッパーも普通の胡椒で代用できる!銀蟹も...その辺のカニ缶で十分だ!」

石川は額の汗を拭いながら、必死に誤魔化そうとしている。富山は呆れ果てて天を仰いだ。

「もう好きにしなさいよ...でも変な材料は絶対に使わないでよ?」

「もちろんだ!安全第一がモットーだからな!ハハハ...」

石川の乾いた笑い声が湖に響く。そんな石川を見て、千葉はますます興奮していた。

「それで、どんなチャーハンなんだ?」

石川は気を取り直すように胸を張った。

「伝説によると、完成したシルバーチャーハンは銀色に輝き、食べた者を天にも昇る心地にさせるという!一口食べれば、この世の全ての悩みが消え去り、二口食べれば人生の真理が見え、三口食べれば...」

「三口食べれば?」富山が不安そうに聞き返す。

「...昇天する!」

千葉は目を輝かせたが、富山は顔面蒼白になった。

「昇天って...まさか死ぬってこと?」

「比喩だ!比喩!あまりの美味しさに天にも昇る心地になるという意味だ!」

石川は慌てて手をブンブンと振った。富山はホッと胸を撫で下ろしたが、まだ疑いの眼差しを向けている。

「よし!それでは早速調理に取り掛かろう!千葉、食材の買い出しに行くぞ!」

「了解!」

千葉は元気よく返事をして、石川と一緒に車に向かった。富山は一人残され、ため息をつきながら本を読み返している。

「この胡散臭い料理人...絶対に怪しいわよ...」

二人が買い出しから戻ってくると、石川は大量の食材を抱えていた。米、卵、長ネギ、チャーシュー、そして何故かカニ缶を10個も持っている。

「石川、カニ缶こんなに要る?」

「シルバーチャーハンには贅沢が必要なのだ!ケチってはいけない!」

石川は汗をかきながら荷物を下ろした。その額には既に汗の粒が浮かんでおり、やる気に満ち溢れている表情だった。千葉も同じように興奮しており、手をこすり合わせている。

「それじゃあ始めよう!まずは炭火を起こすぞ!」

石川は慣れた手つきで炭に火をつけ始めた。その動作は流れるように美しく、まさにベテランキャンパーの技術だった。火が安定すると、石川は気合を入れるように深呼吸をした。

「よし!ここからが本番だ!シルバーチャーハンの調理開始!」

石川はまず卵を割り始めた。その手つきは驚くほど俊敏で、まるでプロの料理人のようだった。片手で卵を割り、もう片手でボウルをクルクルと回している。汗が頬を伝って落ちるが、その表情は真剣そのものだった。

「石川、すごい手際だな!」

千葉が感嘆の声を上げる。富山も石川の調理技術には素直に感心している表情だった。

「フッ、これくらい当然だ!次はご飯を炒めるぞ!」

石川は中華鍋を炭火にかけた。火力が強く、鍋底が赤く光っている。そこに油を入れると、ジューッという音と共に煙が立ち上がった。石川の動きがさらに激しくなり、汗が飛び散っている。

「ハートをシルバーに!」

石川が突然意味不明な掛け声を発した。千葉は「おお!」と感激しているが、富山は眉をひそめている。

「何それ...?」

「伝説の料理人ガブリエルの名言だ!料理に心を込める時の呪文のようなものだ!」

石川はご飯を鍋に投入し、勢いよくかき混ぜ始めた。その動作は圧巻で、ご飯粒が一粒も飛び散らない。お玉を振り回す姿は、まるでドラムを叩いているかのようにリズミカルだった。

「次は卵だ!ハートをシルバーに!」

またも意味不明な掛け声と共に、溶き卵を投入する。卵がジュウジュウと音を立てて固まっていく様子が美しい。石川の額からは大粒の汗が流れ落ち、Tシャツに染みを作っている。

「千葉、ネギを刻んでくれ!」

「了解!」

千葉は包丁を握り、長ネギを刻み始めた。その手つきは素人そのものだが、一生懸命な姿が微笑ましい。一方、富山はカニ缶を開けながら、まだ疑いの目を向けている。

「本当にこれで銀色になるの?」

「もちろんだ!最後の秘密の工程があるからな!」

石川はチャーシューを投入し、さらに激しくかき混ぜた。その動作はもはや芸術的で、まるでフライパンが生きているかのように踊っている。汗は滝のように流れ、息も荒くなってきた。

「ハートをシルバーに!シルバーに!」

連続で意味不明な掛け声を発しながら、調味料を加えていく。醤油、塩、胡椒、そして最後にカニの身をほぐして投入した。

石川は完成したチャーハンを皿に盛り付けた。その動作も儀式的で、まるでピラミッドを築くかのように丁寧に盛り上げている。

「よし!ここからが伝説の秘技だ!銀色への変身の儀式!」

石川は大きなアルミホイルを取り出し、チャーハンが盛られた皿全体を包み始めた。その包み方が独特で、まるでプレゼントを包装するかのように丁寧だった。

「見ろ!このアルミホイルの銀色の輝き!これが変身の触媒となるのだ!」

確かにアルミホイルは太陽の光を受けて銀色に輝いている。千葉は目を輝かせて見つめているが、富山は「ただのアルミホイルじゃない...」とつぶやいている。

「そして最後の工程!みんなでこの呪文を唱えるのだ!『伝説よ、蘇れー!シルバーの魂よ、宿れー!』」

石川が両手を上げて叫んだ。千葉も同じように両手を上げる。

「伝説よ、蘇れー!シルバーの魂よ、宿れー!」

二人の声が湖に響く。富山は恥ずかしそうに小声で「伝説よ、蘇れ...」とつぶやいた。

石川はアルミホイルで包んだ皿を炭火から少し離れた場所に置いた。

「あとは15分待つだけだ!この間に伝説の錬金術が発動し、普通のチャーハンがシルバーチャーハンに変身する!」

三人は炭火を囲んで座り、チャーハンが変身するのを待った。アルミホイルが静かに光り、本当に神秘的な雰囲気を醸し出している。

「石川、本当にこの15分で銀色になるのか?」富山が不安そうに聞く。

「信じろ!伝説の錬金術を信じるのだ!」

石川は自信満々に答えた。その表情には微塵の迷いもない。千葉は期待に胸を膨らませており、時々アルミホイルを見つめては「早く見たいな」とつぶやいている。

「きっとアルミホイルの中で化学反応が起きてるんだ!」千葉が興奮気味に言った。

「化学反応って...」富山がますます不安になる。

やがて15分が経過した。石川は緊張した面持ちで立ち上がった。

「さあ、伝説の瞬間だ!果たしてシルバーチャーハンは誕生したのか!」

石川は慎重にアルミホイルの端を持ち上げた。そして一気に剥がすと...

中から湯気が立ち上がり、その向こうに現れたのは...なんと!本当に銀色に輝くチャーハンだった!米粒一つ一つが真珠のように光り、卵は金銀の光沢を放ち、全体が神秘的な銀色のオーラに包まれていた。

「うわあああああ!」千葉が歓声を上げた。

富山も目を疑っている。「ま、まさか本当に...どうして銀色に...」

石川は得意げに胸を張った。「どうだ!これが伝説のシルバーチャーハンだ!」

三人はそれぞれ箸を取り、恐る恐るチャーハンを口に運んだ。そして...

「うま...」

千葉の言葉が途切れた。目を見開き、完全に固まっている。富山も同様で、箸を持ったまま動かなくなった。

「これは...」

富山がやっと声を絞り出した。その表情は驚愕と感動が混じっている。

「どうだ?美味いだろう?」石川がニヤリと笑った。

千葉が二口目を食べた瞬間、その場にひっくり返った。「あああああ!なんだこれは!米一粒一粒がプリップリで、まるで真珠のような食感!そしてこの卵のふわふわ感!まるで雲を食べているみたいだ!」

富山も三口目を食べて、完全に昇天しかけた。「カニの甘味が口の中で爆発して...醤油の香ばしさと絶妙にマッチして...これは犯罪級の美味しさよ!」

石川も自分の作品を味わい、満足そうにうなずいた。「フッ、やはり伝説は本物だったな...」

三人は夢中でチャーハンを食べ続けた。箸が止まらない。一口食べるたびに新しい味の発見があり、まるで味覚の冒険をしているようだった。

「この長ネギのシャキシャキ感...」「チャーシューの脂身がとろける...」「米の甘味が後から来る...」

三人の感想が止まらない。周りの他のキャンパーたちも、あまりの美味しそうな様子に興味深そうに見ている。

「あの...すみません、何を食べてらっしゃるんですか?すごく美味しそうで...」

隣のサイトの中年男性が声をかけてきた。石川は誇らしげに胸を張った。

「これが伝説のシルバーチャーハンだ!一度食べたら忘れられない味だぞ!」

「よろしければ少し分けていただけませんか?」

「もちろんだ!伝説は皆で共有すべきものだからな!」

石川は快く応じ、他のキャンパーたちにもシルバーチャーハンを振る舞った。すると、食べた人全員が同じ反応を示した。

「うますぎる!」「これは革命的だ!」「レシピを教えて!」

キャンプ場が大騒ぎになった。みんなが石川を取り囲み、作り方を聞いている。石川は得意げに説明しているが、肝心の「ハートをシルバーに」の部分になると、なぜか言葉を濁した。

「まあ、企業秘密というやつだな...」

そんな石川を見て、千葉は感激している。「さすが石川!今回も大成功だ!」

富山も素直に感動していた。「認めるわ...これは本当に美味しい。石川の料理の腕、見直したわよ」

夜になり、三人はまったりとキャンプファイヤーを囲んでいた。今日の成功に満足しており、みんなの表情は穏やかだった。

「いやあ、今日は本当にグレートなキャンプだったな!」石川が満足そうにつぶやく。

「うん!シルバーチャーハン、本当に美味しかった!また作ろうよ!」千葉が興奮気味に言った。

富山も微笑んでいる。「たまには石川の突飛なアイデアも悪くないわね」

三人は星空を見上げながら、今日の思い出を語り合った。湖面に映る星がキラキラと輝いており、まるでシルバーチャーハンのような美しさだった。

翌朝、石川が新聞を読んでいると、顔面蒼白になった。

「お...おい...」

石川の震え声に、千葉と富山が駆け寄った。新聞には大きな見出しで「胡散臭い料理人、詐欺容疑で逮捕」と書かれていた。

記事には「自称『銀翼料理人ガブリエル・シルバーストーン』こと田中一郎容疑者(45)が、偽のレシピ本を高額で販売していた詐欺容疑で逮捕された。田中容疑者は『伝説の料理人』を名乗り、危険な着色料を使った怪しいレシピを記載した本を1冊5万円で販売していた」とある。

三人は顔を見合わせた。

「...石川、まさかそのレシピ本...」富山が恐る恐る聞く。

石川は汗をダラダラと流しながら答えた。「...ネットで3000円で買った...」

「安っ!」千葉が突っ込んだ。

「でも、シルバーチャーハンは本当に美味しかったじゃないか!」

富山がため息をつく。「結果オーライってことね...でも二度と怪しい本は買わないでよ?」

「約束する...でも、シルバーチャーハンのレシピは完璧に覚えたからな!これからも作り続けるぞ!」

石川の宣言に、千葉は「やったー!」と喜び、富山は「はあ...」とため息をついた。

こうして、石川たちの116回目のグレートなキャンプは、予想外の展開を見せながらも、大成功で幕を閉じたのだった。そして、伝説のシルバーチャーハンは、胡散臭い料理人の正体が判明した後も、彼らの中で本当の伝説となったのである。

「次回は何を作ろうか?」

石川の目が再び輝き始めた。千葉は期待に胸を膨らませ、富山は既に頭を抱えていた。

彼らのグレートなキャンプは、まだまだ続く...

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『俺達のグレートなキャンプ116 伝説のシルバーチャーハンを作るぞ(何それ)』 海山純平 @umiyama117

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