隣の席のプロポーズが漫才にしか聞こえない
仮面大将G
隣の席のプロポーズが漫才にしか聞こえない
「俺と、結婚してください!」
隣の席から耳を疑うような言葉が聞こえてきて、思わず視線を移す。そこには頭を深く下げて右手を差し出す青年と、驚愕の表情を浮かべる若い女性がいた。
「ねえ……。本気? 本気だとしたらなんでここで?」
「ん? なんかマズかったか?」
「いや……。ここラーメン屋じゃん!」
そう。ここはラーメン屋。このカップル以外は男一人客で、明らかに場違いなスーツを着てきた青年は圧倒的に浮いていた。
「え? でも老舗の人気店だぞ?」
「だとしてもだよ! 何をどう考えてラーメン屋でプロポーズしようと思ったの!? 私ラーメン食べるモチベーションで来てたからジャージじゃん!? そんな時にプロポーズされたからビックリしてラーメン食べるモチベーション消え去ったじゃん! 返してよモチベーション!」
「ラーメン モチベーション 返済っと」
「そんな自己破産みたいな検索ワードやめてもらえる!? 幸先不安になるよ!」
「国が認めた方法で返済できるらしいぞ」
「嘘つかないの!」
元気なカップルだな。いつもこんな感じなのか? だとしたら相当愉快なカップルだ。
「いやもうこの際ラーメン屋なことはいいよ。でもなんで今出されたラーメン蹴って私の方に寄越したの!?」
「ラーメンに婚約指輪が入ってたらロマンチックだろ?」
「思考回路にメンマでも詰まってんの!? 今の状況はロマンチックって言うよりラーメンキックだよ!」
「それより、指輪は受け取ってくれないのか?」
「指輪って言うけどさ……。これ何で出来てるか言ってみて?」
「ああ、ちゃんとスープに浮くよう背脂で作ったよ」
「背脂じゃん! じゃあ背脂じゃん! 20数年生きて背脂を付けられる左手の薬指の気持ちも考えてよ!」
「クスリともしないだろうな」
「今上手いこと言わなくていいの!」
傍から見たら大喧嘩だな。まあこの青年が振られるのを肴に、俺はラーメンとビールをいただくとするか……。
「こんなプロポーズじゃ嫌だからね! ちゃんとカッコよくプロポーズするまで、私はYESって言わないから!」
「大丈夫だよハニー。俺は絶対に君との結婚を諦めない。あきラーメン!」
「やかましいよ! この期に及んでラーメンを被せてくる神経を疑うよ!」
「でも本当に今プロポーズを受けなくていいのか? 独身期間とラーメンが伸びてしまうぞ?」
「もうラーメンはどうでもいいよ! でも独身期間が伸びるって言われると……」
「どうだい? 受けるのかい? 受けないのかい? それともとりあえずラーメンを食べるかい?」
なんだその選択肢は。意味不明なセンスをしてるな彼氏くんよ。俺ならとりあえず帰るけどな。
「じゃあとりあえずプロポーズは受けて、今はラーメンに集中する!」
「ラーメンの二の次にされた!」
なんでだよ彼女。そんなにラーメン食うモチベーションだったのかよ。まあいいや。俺も自分のラーメン食うか……って俺のが1番伸びてんじゃねえか!
隣の席のプロポーズが漫才にしか聞こえない 仮面大将G @naroutaishog
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます