第5話:少しずつ生まれ変わっていく
この異世界に転生してから三週間ほどが経過した。
俺はちゃんと生まれ変わるためにも毎日しっかりとトレーニングを重ねて来た。おかげで身体はだいぶ絞れてきた。
かなりキツイ地獄のトレーニングだけど、でもこんな短期間でここまで身体を絞れたのは本当に凄い事だよな。だからセバスには感謝しなきゃだな。まぁあまりにも地獄すぎて辛いからさっさとトレーニングから卒業したいんだけどさ……。
そしてこの地獄のトレーニング以外にも俺はとある事を始めていった。それは何かというと……。
「し、失礼します、坊ちゃま……こ、紅茶を持ってきました……ど、どうぞ……」
「あぁ、ありがとう、セラズ」
「……えっ? わ、私の名前を知ってくださっていたんですか?」
「当たり前だろ。俺は従者の名前は全員知っているよ。いつも俺のために美味しい紅茶を淹れてくれてありがとう、セラズ」
「え? ……あ、い、いえ! それが私の仕事ですから! それでは紅茶と一緒にお茶菓子の用意もさせて頂きますね。本日は隣町から取り寄せてきた高級なフルーツケーキとなりま……」
「いや、今はダイエット中だからお菓子は要らないよ。でも俺のために隣町まで行ってきてそんな美味しそうなケーキを用意してくれてありがとう。用意してくれたお菓子は従者たちの休憩時間に皆で食べてくれ」
「え……えぇっ!? お、お菓子を要らないですって!? あ、あの甘い物大好きな坊ちゃまがですか!? し、しかもそのお菓子を私たちに与えて下さるんですか?」
「あぁ。もちろん。遠慮せずに従者の皆で食べてくれと伝えといてくれ」
「は、はい、かしこまりました……!」
……
「ぼ、坊ちゃま。本日の勉学の時間となりましたが……ど、どうしましょうか? もしも坊ちゃまの体調が優れないようでしたらお休みにして頂いて構いませんよ……?」
「いや、もちろん勉強をするよ。今日も講義を頼む」
「ほ、本当ですか? い、いや、私はもちろん構わないのですが……ですが普段は私の講義をする時間はその……坊ちゃまは体調が優れないという事で休まれる日が多かったと思うのですが。それなのにこんなにも毎日私の講義を受けて下さるなんて……い、一体どうしたんですか?」
「そんなの決まってるよ。だってヒューズの講義はとてもわかりやすくて楽しいって事に気が付いたんだよ。だからもうズル休みでサボるなんて事はしないさ。いつもわかりやすい講義をしてくれて本当にありがとう。ヒューズ」
「……えっ!? あ、い、いえ、それはその……家庭講師として分かりやすい講義をするのは当然の事ですから……」
「そうか。ヒューズは本当に凄いな。それじゃあ早速ヒューズに聞きたい事があるんだけど少し良いか? 昨日自習をしてたんだけど、この問題がちょっとわからなくてさ……」
「え……って、えぇっ!? ぼ、坊ちゃまは一人で自習もされてたんですか!? そ、そんな……そんな事が!?」
「あぁ。ヒューズの講義が面白くて、講義が終わった後も一人で自習をしてたんだよ。という事ですまないけど、この問題をちょっと教えてくれないか?」
「は、はい! もちろんです! 私で良ければ懇切丁寧に解説させて頂きます! それではどの問題でしょうか?」
……
「も、申し訳ありません坊ちゃま……! 部屋の掃除中に坊ちゃまが大事にしていたコーヒーカップを洗い物中に壊してしまいました……!」
「ふむ、そうだったのか」
「ひ、ひぇっ……お、お願いします……! わ、私はどんな懲罰でも受けますから……ですからクビだけは勘弁してください……私には病気の母がいるので……だからここをクビになってしまったら母の薬代が……ぐすっ……うぅ……」
「ん? いや、そんな事はしないから気にしなくて良いぞ。それよりも怪我は無かったか、エリミーヌ?」
「ぐすっ……ふぇっ? あ、は、はい、私は怪我はしておりませんが……」
「そうか。それなら良かった。まぁカップを割ってしまったのは良くない事だが、今後カップを割らないように注意して働いてくれればそれで構わないよ。だからこれからは気を付けて働いてくれよ」
「……えっ? あ、あの……そ、それだけですか? そ、その……懲罰とか体罰はないのですか? わ、私は坊ちゃまの大切なカップを割ってしまったのだから……こんな注意だけで済ませる訳……ないですよね……?」
「懲罰や体罰なんて必要ない。だからそんな怖がらなくて良いよ。そもそも俺にとってはカップなんかより従者たちの方がよっぽど大切なんだからさ」
「え……? わ、私たちの方が大切……ですか?」
「あぁ、そうだよ。もしもエリミーヌが怪我をしてしまったら俺は凄く心配するんだからな? だからこれからも怪我とかには注意して働いてくれ。それと……」
「そ、それと……?」
「俺の部屋をいつも綺麗に掃除してくれてありがとう。君のおかげで毎日とても健やかに生活出来てるよ。だからこれからも部屋の掃除をよろしく頼む、エリミーヌ」
「ぼ、坊ちゃま……! ぐすっ……あ、ありがとうございます……! そう言って貰えると凄く嬉しいです……! わかりました、それではこれからも……これからも坊ちゃまのために精一杯頑張ってお仕事していきます!」
……
……
という感じで、俺はこの数週間は従者の皆としっかりと対話を行ってきた。
今までの俺は従者たちに対して意味もなく体罰をしたり、暴言を吐いたり、クビにするぞと脅したりしてた、どうしようもないクソガキだった。
だから俺は従者の皆からは完全に嫌われてたし恐怖の対象になっていた。
それでも俺は嫌われてるのを理解したうえで頑張って従者の皆と対話していった。いつも仕事を全うしてくれてる皆に感謝の気持ちもしっかりと伝えていった。
そんな誠心誠意の気持ちを込めて対話をし続けてきた事で、ここ最近は従者との会話が少しずつ増えてきていた。
もちろんまだまだ訝しげに見られてしまっているけど、それでも嫌われまくっていた最初の頃と比べたらだいぶマシにはなってきた。
(だからこれからも従者の皆にしっかりと信頼して貰えるように頑張って対話をしていこう)
それともう一人、俺には従者以外にも対話をしなきゃいけない相手がいる。それはもちろん義妹のエレノアだ。今の所は無視ばっかりされているので従者たちと違って対話すらままならない状況だ。
でも俺には一つの策がある。それはエレノアのアクセサリーだ。俺はセバスから受け取った強力な接着剤を使って、壊れてしまったアクセサリーをコツコツと直していっていた。
そしてそのエレノアのアクセサリーを昨日の夜にようやく直し終えたんだ。転生前の俺がかなりバラバラに壊してしまってたから、修復するのに一週間近くかかってしまったけど……まぁとりあえず直す事が出来て本当に良かった。
「よし、それじゃあエレノアにこのアクセサリーを渡しにいこう。そしてちゃんと誠心誠意を込めて謝りにいこう」
という事で俺はアクセサリを返すために早速エレノアの部屋に向かって行った。
もしかしたらまたエレノアに無視されてしまうかもしれないけど……でもエレノアが大事にしていたアクセサリーはちゃんと返してあげなきゃだな。それで今日は誠心誠意を込めてしっかりと謝っていこう。
―― コンコン……
「……あれ?」
エレノアの部屋をノックしたんだけど、中から何の返事も帰ってこなかった。でもそれはちょっとおかしい。だって今は三時のオヤツ前の時間だぞ。
だからいつもエレノアはこの時間帯には自分の部屋にいるはずだ。それなのに中から何の音も聞こえないなんておかしいな。
「エレノア? いないのか? ドア開けるぞ?」
なので俺はちょっと疑問に思ったので、エレノアの部屋のドアノブを回していって、部屋のドアを開けていった。
―― ガチャ……
「……あれ? やっぱりエレノアはいないのか?」
部屋のドアを開けて中に入ってみたんだけど、部屋の中には誰もいなかった。エレノアはお菓子が大好きだから三時のオヤツ時にはいつも自分の部屋で待機してるはずなのに。
「おや、どうしましたか、坊ちゃま?」
「カリファか。エレノアの部屋の中にエレノアがいないんだけどさ……エレノアが何処にいるか心当たりはないか?」
「え? エレノアお嬢様がいないですって? う、うーん……あ、そういえばさっきエレノアお嬢様からポーション薬が欲しいって言われたような……」
「エレノアがポーション薬を? 何処か怪我でもしたのか?」
「いえ、エレノアお嬢様は怪我はしてませんよ。ですが母親のテレジア様が昨夜から体調が優れないとの事で、昨夜から今にかけてずっと自室のベッドで休んでいるんです。それでエレノアお嬢様はテレジア様の事を心配してポーション薬が無いかを尋ねてきたんだと思います」
「なるほど。それで屋敷の中にはポーション薬はあったのか?」
「いえ、常備してたポーション薬の在庫が全て切れてしまっているので、午後の仕事が終わったら後で商店街の方に行って買ってこようと思っています」
「ふむ、なるほどな……って、まさか!? そ、それじゃあエレノアは……ポーション薬を買いに一人で商店街の方に出かけたという可能性はないのか!?」
「……えっ!? あ、は、はい、確かにその可能性はありますね……!」
ポーション薬を買うだけならエレノアのお小遣いでも買えるはずだ。それならエレノアはポーション薬を買いに屋敷から出て一人でコッソリと商店街に出かけてしまった可能性がある。そしてそれはつまり……。
(ま、まずい! それじゃあもしかして……エレノアが闇堕ちする事件が起きるのって今日なのか!?)
俺はかなり焦った。だってゲーム本編でエレノアは幼少の頃に生まれて初めて一人で街の中で買い物をしてた時に賊に襲われてしまい、奴隷商に売られてしまったと語っていた。それが原因となってエレノアは闇堕ちして厄災の魔女になってしまうんだぞ。
そして今はまさにエレノアは幼少期だし、一人でポーション薬を買いに出かけたとしたら……そんなの賊に襲われるのは今日って事になるじゃないか!
「まずい! カリファ! 急いでセバスに報告してくれ! そしてセバスにエレノアを捜索するように頼んでくれ!」
「は、はい、わかりました! 今すぐにセバス様に報告してきます!」
「ありがとう! 俺は一足先に屋敷を出てエレノアを探してくる! それじゃあセバスへの報告を頼んだぞ! カリファ!」
「え……って、えぇっ!? ぼ、坊ちゃまも街の中に出かけるんですか!? ま、待ってください! 坊ちゃまもまだ子供なのに一人で行くなんて危険ですよ……って、あぁっ!? ぼ、坊ちゃまああああああ……!!」
俺はカリファの制止を振り払って急いで屋敷から飛び出して街の中へ向かった。エレノアの無事を祈って全力で走っていった。
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